民藝運動

民藝運動：無名の職人たちの美の発見と継承

民藝運動は、柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司らによって1920年代に開始された、日本の美術史における重要な運動です。この運動は、それまで美術史の主流から外されていた、無名の職人たちが日々の生活の中で生み出してきた日用雑器（焼き物、染織、漆器、木竹工芸品など）に美を見出し、その価値を再評価しようとするものでした。

白樺派からの出発

柳宗悦は、1910年に武者小路実篤、志賀直哉らと雑誌『白樺』を創刊した白樺派の中心人物でした。白樺派は西欧近代文化に傾倒しつつも、日本の伝統文化への関心も持ち合わせており、柳宗悦の民藝運動への関与もこの背景に深く根ざしています。バーナード・リーチらイギリスの工芸家との交流も、民藝運動の思想形成に影響を与えました。

朝鮮民藝との出会い

1910年代半ば、柳宗悦は朝鮮の陶磁器に強い関心を抱くようになり、朝鮮民族美術館を設立するに至ります。朝鮮王朝時代の雑器に接した柳宗悦は、その素朴ながらも力強い美に魅了され、民衆の美意識と技術の融合に感銘を受けました。この経験は、後の民藝運動の礎となりました。

木喰仏と「下手物」の美

1920年代に入ると、柳宗悦は木喰仏の発見をきっかけに、日本の民衆的工芸への関心を一層深めます。京都の朝市で出会った「下手物」（民衆が日常的に使用する雑器）に美的価値を見出し、その蒐集と研究を進めます。この「下手物」への着目こそが、民藝運動の中核をなす概念となりました。

「民藝」の誕生と運動の展開

1925年頃、「民衆的工藝」を略した造語「民藝」が誕生しました。「民藝」という言葉は、単なる工芸品ではなく、民衆の生活に根ざした、実用的で美しい工芸品を指し示す概念として位置づけられました。柳宗悦らは、民藝の普及のため、展覧会の開催、雑誌『工藝』の創刊、そして日本民藝館の設立など、精力的に活動しました。

上賀茂民藝協團

柳宗悦は、無名の職人たちの技術と美意識を尊重し、新しい民藝を生み出すための協同組合である「上賀茂民藝協團」を設立しました。協團では、染織、漆芸、木工などの職人たちが集まり、共同制作や技術指導が行われました。この協團は、民藝運動の理念を具現化する試みとして重要な役割を果たしました。

沖縄と東北への視線

民藝運動は、日本各地の民衆的工芸に注目しました。特に沖縄と東北地方は、民藝運動にとって重要な地域となりました。沖縄の紅型や壺屋焼、東北の蓑などの工芸品は、民藝の美を象徴するものとして高く評価されました。柳宗悦らは、これらの地域を訪れ、工芸品を収集し、現地の職人たちと交流を深めました。

戦時中と戦後

第二次世界大戦中は、民藝運動も戦時体制の影響を受けました。しかし、終戦後、民藝運動は新たな展開を見せます。1950年代後半から1970年代にかけては、高度経済成長を背景とした民藝ブームが到来し、「民藝」という言葉は一般的に広く知られるようになりました。

民藝運動の評価と影響

民藝運動は、日本の伝統工芸の再評価、保存、そして新たな創造に大きく貢献しました。しかし、その一方で、柳宗悦の思想や手法に対する批判的な見解も存在します。北大路魯山人や白洲正子らからは、民藝の理論や実践に対する批判がなされました。

民藝運動と現代

現代においても、民藝運動の思想は、現代美術やデザイン、工芸の分野に影響を与え続けています。近年では、「ネオ民藝」と呼ばれる運動も登場し、現代の生活におけるものづくりのあり方について再考されています。

民藝運動に関わった主要人物

民藝運動には、柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司をはじめ、多くの著名な芸術家、職人、研究者などが関わりました。彼らの活動と貢献は、民藝運動を語る上で欠かせないものです。

主要な民藝館

日本各地には、民藝運動の理念を継承する民藝館が数多く存在します。これらの民藝館は、民藝運動の歴史と成果を保存し、後世に伝える重要な役割を担っています。これらの施設では、無名の職人たちの工芸品や民藝運動に関わった人々の作品を鑑賞することができます。

もう一度検索