名もなき塀の中の王

『名もなき塀の中の王』（原題:Starred Up）は、2013年に公開されたイギリスの犯罪ドラマ映画です。少年院から成人刑務所へと移送された19歳の青年エリック・ラブの、過酷な現実と向き合い、成長していく姿を描いた作品です。

監督はデヴィッド・マッケンジー、主演はジャック・オコンネルとベン・メンデルソーン。ロンドンの刑務所で実際に囚人相手の心理療法士として働いた経験を持つジョナサン・アッセルの脚本に基づいており、リアリティのある描写が特徴です。

物語は、暴力的な振る舞いから少年院を出て、成人刑務所へと移送されてきたエリックから始まります。そこで彼は、長年会っていなかった父親、ネビルと再会します。ネビルは終身刑囚であり、刑務所での生存術をエリックに教えますが、エリックは反抗的な態度を崩しません。

エリックは、刑務所のカウンセラー、オリバー・バーマーが開くグループセラピーに参加します。当初は反発していたエリックも、次第に他の受刑者と打ち解け、心の内を語り始めます。その中で、彼は幼少期の辛い経験、母親を早くに亡くし、施設で性的虐待を受けた過去を明かします。

ある日、ネビルがグループセラピーの場に現れ、エリックとネビルは激しく対立します。その騒動で、エリックとネビルは懲罰房に入れられます。この事件をきっかけに、オリバーは刑務所の体制に失望し、辞職します。

一方、ネビルは刑務所のボス的存在であるデニス・スペンサーと接触し、エリックが危険にさらされていることを知ります。ネビルは、エリックの命を守るため、デニスを殺害します。

懲罰房にいたエリックは、副刑務所長ヘインズらに襲われます。彼らはエリックを天井から吊るそうとしますが、そこにネビルが現れ、看守たちと激しい格闘を繰り広げます。ネビルはエリックを救出し、2人は抱擁します。

その後、デニス殺害の罪で移送されるネビルを見送るため、エリックは刑務所を訪れます。手錠をかけられたまま、2人は言葉を交わし、ネビルはエリックへの父としての愛情を伝えます。ネビルは看守に連れ去られ、エリックは彼の背中を見送ります。

この映画は、父子関係の複雑さ、暴力の連鎖、更生への道のりをリアルに描き出しています。エリックの葛藤や成長、ネビルの複雑な心情、そして刑務所という閉鎖された空間の中で生きる人々の姿は、見る者の心に深い感銘を与えます。ジャック・オコンネルとベン・メンデルソーンの演技も高く評価されており、特にオコンネルは、この作品で高い評価を受けました。

Metacriticでは26件の批評家レビューで平均81点、Rotten Tomatoesでは105件のレビューで平均7.9点、支持率99%と、批評家からも高い評価を得ています。ハリウッド・リポーター誌のトッド・マッカーシーは、ジャック・オコンネルの演技を絶賛し、将来のスターとしての到来を予言しています。

『名もなき塀の中の王』は、社会問題を深く掘り下げた、衝撃的で感動的な犯罪ドラマです。暴力と愛、そして人間の強さと弱さを描いた、忘れられない作品と言えるでしょう。

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