名古屋鉄道刈谷工場

刈谷工場（かりやこうじょう）

概要

愛知県刈谷市に存在した、名古屋鉄道（名鉄）がかつて運営していた車両基地の一つです。名鉄三河線の刈谷駅に隣接し、特に碧南方面へ向かう線路沿いに位置していました。この施設のルーツは、現在の名鉄三河線を運営していた三河鉄道時代にまで遡ります。名鉄の施設としての用地面積は約1万1千平方メートル弱（10,976m²）、建物面積は約2千2百平方メートル規模（2,188m²）を有していました。

歴史

前身と貨車専門工場としての発足

刈谷工場の起源は、名鉄に吸収合併される前の三河鉄道が設けていた車両工場、通称「刈谷車庫」にあります。

名鉄の施設としての本格的な稼働は、第二次世界大戦後間もない1948年（昭和23年）に始まります。これは、名古屋本線沿いにあった新川工場（現在の岐阜県笠松町に位置）から、貨車に関する業務が移管されたことによるものです。この移管に伴い、刈谷工場は貨車を専門に扱う工場として特化する形で発足しました。

役割と業務内容

発足以降、刈谷工場は名鉄が保有する全貨車を対象とした検査や修理を一手に担う重要な拠点となりました。貨物列車の運行に不可欠な貨車のメンテナンスを担当することで、名鉄の貨物輸送を支えていました。また、名鉄線内の主要な貨物取り扱い拠点であった刈谷駅、神宮前駅（名古屋市熱田区）、西枇杷島駅（現在の清須市）に設けられていた各貨車区は、刈谷工場の管轄下に置かれ、その業務をサポートしていました。

工場に隣接して設けられていた「刈谷検車区」は、名称こそ似ていますが、刈谷工場の直接の管理下ではなく、むしろ貨物業務を移管した元の新川工場の管轄とされていました。これは、工場（車両の分解・大規模修理）と検車区（日常的な点検・小規模修理）という機能の違いによるものと考えられます。

電車検査業務の有無

貨車が主要な担当でしたが、設立当初から一定期間は、三河線を走行する電車車両の定期検査も行っていました。しかし、この業務は1956年（昭和31年）をもって終了し、以降、三河線用電車の検査は鳴海工場（現在の名古屋市緑区に位置）へと移管されました。

組織再編と閉鎖

1960年代に入ると、日本の物流構造の変化やトラック輸送の発達などにより、鉄道による貨物輸送量は減少傾向を示し始めます。名鉄においても例外ではなく、貨車関連業務の見直しが迫られました。

こうした背景から、1964年（昭和39年）には組織再編が行われ、刈谷工場は「刈谷分工場」へと名称を改め、先に電車検査業務を移管した鳴海工場の管理下に組み込まれることになりました。これは、工場機能の一部縮小や役割の変化を示すものでした。

その後も名鉄における貨物輸送の合理化、特に三河線の碧南方面（いわゆる「海線」）での貨物取り扱いが順次廃止されるなど、貨車運用が大幅に縮小されていきます。こうした時代の流れと業務の縮小を受け、刈谷分工場は1968年（昭和43年）10月をもって、その約20年におよぶ名鉄の施設としての歴史に幕を閉じました。

刈谷工場の閉鎖は、名鉄から貨物輸送が次第に姿を消していく時代の流れを象徴する出来事の一つであったと言えます。

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