名張毒ぶどう酒事件

名張毒ぶどう酒事件の詳細

名張毒ぶどう酒事件（なばりどくぶどうしゅじけん）は、1961年3月28日の夜、三重県名張市にある旧葛尾地区の公民館で発生した悲劇的な中毒事件です。この事件は、地域住民が集まった宴席で振る舞われたワインに毒物が混入されたことが原因で、多くの女性が中毒症状を訴え、結果として5人が命を落としました。今回は、この事件の背景、経過、そしてその後の冤罪訴訟の経過について詳しく見ていきます。

事件の発端

事件当夜に行われた総会には男女合計32人が参加し、特に女性たちにはぶどう酒が提供されました。しかし、そのぶどう酒には農薬の一種であるニッカリンTが混入されており、それを飲んだ女性たちが急性中毒を訴える事態が発生しました。発症した女性17人のうち、5人が死亡しました。

捜査機関は、飲酒していなかった男性や中毒症状が現れなかった女性たちと対比して原因を究明。この結果、ぶどう酒の中に毒物が混入されていたことが判明しました。のちに、実質的な容疑者として奥西勝（おくにしまさる）が浮かび上がり、彼は捜査当局によって逮捕に至ります。奥西は事件当時35歳で、無実を主張しましたが、彼の自白が大きな証拠とされました。

裁判の経過

最初の裁判は1961年6月に始まりましたが、奥西は自らの無罪を訴え続けました。しかし、1969年には名古屋高裁において逆転死刑判決が言い渡され、以降は様々な再審請求の試みが続きました。第一審での無罪を破棄した高裁の判断は、日本の刑事訴訟において前例のないものであり、後に多くの議論を呼び起こしました。

冤罪の主張と再審請求

事件から数十年を経ても、奥西は再審を求め続けました。彼の母や長男がその無実を信じ続け、様々な再審請求が行われましたが、ほとんどは却下されました。特に、1993年以降の異議申し立てはすべて棄却され、彼の冤罪の可能性がますます注目されるようになりました。

2005年には再審開始が決定されるも、その後の検察の反発によりこの決定は取り消されました。最高裁による審理は、科学的な見地から新たな証拠を検討する過程で、多くの再検証が行われましたが、結果として再審には至りませんでした。

事件の影響

名張毒ぶどう酒事件は、単なる一件の事件にとどまらず、日本の冤罪問題や死刑制度に対する社会の認識を根本から揺るがす機会を提供しました。この事件を題材にしたドキュメンタリーや書籍も多く、メディアに取り上げられたことは重要な社会的議論を引き起こしました。

奥西勝の死

奥西は、長い苦悶の中、2015年に89歳で死亡しました。彼の死により、第9次再審請求審は終了し、名張毒ぶどう酒事件はその歴史の一幕を閉じました。その後も、彼の無実を信じる人々や団体は再審請求の活動を続け、名張毒ぶどう酒事件を巡る議論は終わることなく続いています。

この事件は、日本における刑事司法の在り方や、死刑制度の是非について考えるきっかけを提供し続けているのです。

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