向栄

向栄（しょう えい、Xiang Rong、1792年 - 1856年8月9日）は、清朝末期の軍人であり、字を欣然と称した。四川省夔州府大寧県（現在の重慶市巫渓県）の出身である。

軍人としてのキャリアは、提督楊遇春の部下として始まった。青海や新疆での戦役に従軍し、その武勇と指揮能力を発揮。これらの戦功が認められ、直隷総督であったキシャン（琦善）にその才能を見出されることとなる。1833年には、開州協副将という要職に任命され、軍人としての地位を確立した。

1847年には四川提督に昇進、1851年にはさらに広西提督へと転任し、その軍事的才能は高く評価されていた。しかし、この時期に太平天国の乱が勃発。清朝は、この大規模な反乱に手を焼くこととなる。向栄は、広西省から太平天国軍の追撃にあたるよう命じられ、欽差大臣に任命され、反乱鎮圧の最前線に立つこととなった。

1853年、太平天国軍は南京を占領し、天京と改称して都とした。この事態を受け、向栄は江南大営を築き、天京を包囲する体制を構築。太平天国軍との長きにわたる対峙が始まった。この包囲戦は約3年にも及んだが、1856年6月、太平天国軍が第一次江南大営攻略に成功。向栄率いる清朝軍は敗北し、江南大営は壊滅的な打撃を受けた。

敗戦後、向栄は丹陽に退却し、太平天国軍の将軍、秦日綱の軍勢と激戦を繰り広げた。しかし、その後の8月に病に倒れ、失意のうちにこの世を去った。一説には自殺であったとも伝えられている。彼の死後、後任の欽差大臣には江南提督の和春が任命され、太平天国との戦いは継続された。

向栄は、清朝末期の混乱期において、その軍事力と指導力を発揮した人物であった。しかし、太平天国の乱という未曾有の反乱を鎮圧することはできず、その生涯は悲劇的な結末を迎えた。彼の築いた江南大営は、太平天国軍との激戦の舞台となり、清朝の衰退を象徴する出来事の一つとして、歴史に名を残している。

その後の歴史研究では、向栄の軍事的な才能は評価される一方で、太平天国軍の勢いを前にして苦戦を強いられたこと、そして最終的に江南大営を失った責任を指摘する声もある。彼の生涯は、清朝末期の激動の時代を映し出す鏡として、後世に語り継がれている。

もう一度検索