秦日綱

秦日綱（しん じつこう）

秦日綱（Qín Rìgāng、1821年 - 1856年）は、19世紀中頃に中国で勃興した太平天国の指導者の一人であり、燕王に封ぜられた人物です。彼の生涯は、太平天国の興隆と内部抗争の激化を象徴する出来事に満ちています。

生い立ちと太平天国への参加

秦日綱は、広西省潯州府貴県の出身です。早くから洪秀全が創始した拝上帝会に入信し、その初期からのメンバーとして活動しました。1851年の金田蜂起に参加し、太平天国軍の幹部として頭角を現し、天官正丞相に任命されました。この任命は、彼の軍事的な才能と指導力を示すものでした。

軍事的な活躍

1853年、太平天国の勢力拡大に伴い、秦日綱は重要な役割を担うことになります。彼は、翼王石達開に代わって安慶に駐屯し、太平天国の重要な拠点の一つを任されました。翌1854年には燕王に封ぜられ、その地位を確固たるものとしました。

北伐軍の救援に向かう途中で舒城で引き返しましたが、その後も武昌と漢陽が陥落すると、田家鎮まで救援に向かうなど、太平天国の軍事作戦において重要な役割を果たしました。しかし、12月には湘軍に敗北し、安慶に撤退を余儀なくされます。しかし、翌1855年には広済で湖広総督楊霈の軍を撃破し、武昌・漢陽を再び占領するなど、その軍事的才能は衰えを知りませんでした。

さらに、1856年5月には鎮江に援軍を率いて赴き、鎮江守将の呉如孝とともに江蘇巡撫ジルハンガ（吉爾杭阿）率いる7千の清軍を殲滅しました。続いて江南大営・江北大営を撃破するなど、太平天国の軍事的優位を確立する上で重要な働きをしました。

天京事変と悲劇的な最期

しかし、太平天国の内部では、指導者たちの間の権力闘争が激化していました。1856年9月、天王洪秀全は、東王楊秀[[清]]を殺害するよう、北王韋昌輝と秦日綱に密命を下しました。この密命を受け、秦日綱は韋昌輝とともに楊秀[[清]]とその一族を皆殺しにするという凄惨な事件を引き起こします。さらに、韋昌輝は翼王府も襲撃し、太平天国は内乱状態に陥りました。

石達開が天京を逃れた後、韋昌輝は秦日綱に追跡を命じましたが、秦日綱は天京の外の太平天国軍の大半が石達開を支持していることを知り、追跡をあきらめました。その後、韋昌輝が殺害された後、秦日綱は石達開の要求により、洪秀全によって殺害されました。この一連の事件は、太平天国の衰退を決定づける「天京事変」として知られています。

秦日綱の生涯は、太平天国の勃興期における軍事的な活躍と、内乱における悲劇的な結末を示すものであり、太平天国の歴史を語る上で欠かせない人物の一人です。彼の勇猛さと、その最後は、太平天国の歴史の暗部を象徴していると言えるでしょう。

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