吸収 (化学)

物質の移動：吸収のしくみ

物質が、ある状態（相）から別の状態（相）へと移動する現象を、化学において「吸収」と呼びます。これは、物質が周囲の環境から取り込まれる、あるいは物質が別の物質の中に取り込まれるといった、広範な現象を包含する概念です。

吸収と吸着：何が違う？

吸収とよく混同される現象に「吸着」があります。どちらも物質の移動に関わる現象ですが、その違いは物質が移動する場所にあります。吸収は、物質が一方の相の内部全体に移動する現象です。一方、吸着は、物質が二つの相の界面、つまり境界面に集まる現象です。例えば、多孔質物質が気体を取り込む場合、気体が物質の表面に付着するなら吸着、内部全体に広がるなら吸収となります。

吸収の種類：物理吸収と化学吸収

吸収には、大きく分けて「物理吸収」と「化学吸収」の二種類があります。物理吸収は、ファンデルワールス力などの弱い分子間力によって物質が移動する現象で、比較的容易に可逆的な変化を示します。一方、化学吸収は、共有結合などの強い化学結合を伴う現象で、不可逆的な変化であることが多いです。

吸収の理論：分配係数と平衡

物質Xが二つの相（例えば、液体と気体）の間で平衡に達した場合、それぞれの相における物質Xの濃度比は一定となります。この濃度比を分配係数と呼びます。この関係は、気体の吸収においては分圧を用いて表現することもできます。分配係数が1から大きく離れている場合、物質Xを選択的に抽出するといった応用が可能です。

物理吸収は、自発的に進む過程であり、通常は系の自由エネルギーを減少させます。また、吸着はエントロピーが減少する過程であることが多いので発熱反応となりますが、物理吸収は必ずしもそうではなく、エントロピーが増大する吸熱反応となる場合もあります。吸収の速度は、二つの相の間の界面積にも依存します。固体の場合、多孔質の物質ほど吸収速度が速くなります。

吸収と他の現象との関係

活性炭やシリカゲルなどの多孔質物質が水や臭気成分を吸着する現象は、一見吸収のように見えますが、実際は物質の表面への吸着です。吸収と吸着、あるいはその機構が不明確な場合を総称して「収着」と呼びます。また、気体や液体が固体内部に移動する現象を「吸蔵」と呼びますが、これは吸収や吸着とは異なる現象である場合もあります。広義の吸蔵には吸収や吸着が含まれますが、狭義には気体や液体が固体内部に、固体とは別の相として存在する場合を指します。水素吸蔵合金などは吸収による吸蔵の例です。

吸収の応用：日常生活から産業まで

吸収現象は、特定の物質を回収・分離するために広く利用されています。日常生活では、乾燥剤として用いられる生石灰（化学吸収）や塩化カルシウム（物理吸収）が挙げられます。ただし、シリカゲルは吸着を利用した乾燥剤です。また、紙や繊維などのセルロース製品、あるいは高吸水性高分子は液体の水の吸収に用いられています。化学吸収の応用例としては、脱酸素剤などがあります。さらに、抽出という操作も液相における特定成分の吸収を利用した方法です。

関連事項

吸収に関する理解を深めるために、以下の関連事項も参照ください。

浸透
ガス吸収
吸湿性・水和物・潮解
固溶体
* 吸収式冷凍機 (気体の凝縮工程を液相または固相への吸収により行う)

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