吸収線量

吸収線量とは

吸収線量（absorbed dose）とは、放射線が物質に照射された際に、その物質が単位質量あたりに吸収するエネルギー量を指します。放射線と物質との相互作用によって、物質は放射線のエネルギーを吸収します。この現象は、物質の種類に関わらず発生します。

定義

吸収線量（D）は、物質が吸収する平均エネルギー量（ε̄）を質量（m）で割ったものとして定義されます。


D = ε̄ / m


ここで、微分形で定義されているのは、物質の一定の体積ではなく、点での定義が可能であることを示しています。また、平均エネルギー（ε̄）を用いるのは、放射線一本一本の挙動がランダムであるため、平均的なエネルギーとしてしか捉えられないためです。

吸収線量の単位にはグレイ（Gray、記号: Gy）が用いられ、1Gyは1ジュール/キログラム（1 J/kg）に相当します。

吸収線量の種類

吸収線量の定義には、物質の指定がありません。そのため、取り扱う問題に応じて物質を定める必要があります。

臓器吸収線量：人体のある特定の臓器が吸収する放射線エネルギー量を指します。放射線の人体への影響を評価する上で最も重要な指標の一つです。
空気吸収線量：空気が吸収する放射線エネルギー量を指します。放射線測定において、基準となる線量として利用されます。

吸収線量と放射線防護

放射線は人体に有害な影響を与える可能性があります。放射線による健康影響を評価する上で、臓器吸収線量は最も重要な要素の一つです。ただし、同じ吸収線量でも、放射線の種類（ガンマ線、アルファ線など）や中性子線のエネルギーによって、人体への影響は異なります。そのため、放射線防護の分野では、吸収線量に放射線荷重係数を掛け合わせた等価線量が用いられます。

吸収線量が用いられる場面

吸収線量（臓器吸収線量）は、主に以下の場面で用いられます。

確定的影響の評価：放射線による組織の損傷など、ある閾値以上の線量で必ず発生する影響を評価する場合
医療分野での放射線診断・治療：放射線診断や放射線治療における患者の被ばく線量を評価する場合。放射線治療では、医師は通常グレイ（Gy）またはミリグレイ（mGy）単位で放射線量を処方します。

まとめ

吸収線量は、放射線が物質に与えるエネルギー量を定量的に表すための重要な概念です。特に人体への放射線影響を評価する上で、臓器吸収線量は不可欠な指標となります。放射線防護や医療分野において、適切な放射線管理を行うために、吸収線量の理解は非常に重要です。

参考資料

草間 朋子、甲斐 倫明、伴 信彦『放射線健康科学』杏林書院、1995年。
草間 朋子『あなたと患者のための放射線防護 Q&A』（改訂新版）医療科学社、2005年。
草間 朋子(編) 編『看護実践に役立つ放射線の基礎知識―患者と自分をまもる15章』医学書院、2007年。
森下雄一郎「周辺および個人線量当量標準の設定に向けた調査研究」『産総研計量標準報告』第4巻第6号、計量標準総合センター、2007年12月。
* 日本アイソトープ協会(編) 編『放射線・アイソトープ 講義と実習』丸善、1992年。

もう一度検索