等価線量

等価線量とは

等価線量（equivalent dose）とは、放射線が人体に与える影響を評価するための線量概念の一つです。放射線防護の目的で使用され、人体各組織や臓器が受ける放射線被曝の程度を定量的に表します。単位にはシーベルト（Sv）が用いられます。

等価線量の重要性

放射線による生物影響は、単に吸収されたエネルギー量（吸収線量）だけでなく、放射線の種類やエネルギーによっても異なります。例えば、同じ吸収線量でも、アルファ線とガンマ線では生物影響が大きく異なります。

そこで、放射線の種類による影響の違いを考慮するために、吸収線量に放射線加重係数というものを乗じて補正します。この補正された線量が等価線量です。

等価線量の定義

等価線量は、ある特定の臓器や組織が受けた平均吸収線量に、放射線の種類に応じた放射線加重係数を乗じることで算出されます。

具体的には、次の式で表されます。

等価線量(HT)] = [平均吸収線量]] × [[[放射線加重係数(wR)]

ここで、HTは臓器Tにおける等価線量、DTは臓器Tにおける平均吸収線量、wRは放射線Rの放射線加重係数を表します。

放射線加重係数

放射線加重係数は、放射線の種類によって異なる値が用いられます。

X線、ガンマ線、ベータ線：1
陽子線：5
アルファ線：20
中性子線：エネルギーによって5から20の値

これらの値は、国際放射線防護委員会（ICRP）の勧告に基づいて定められています。

等価線量の用途

等価線量は、主に放射線防護の目的で使用されます。具体的には、以下の様な用途があります。

放射線業務従事者の線量管理
放射線被曝によるリスク評価
臓器・組織ごとの線量限度の設定

特に、皮膚や眼などの限局した領域に対する線量評価に用いられます。これらの部位は、実効線量に加算できないため、等価線量が重要な指標となります。

等価線量の測定

等価線量は、人体内部の臓器に対して直接測定することは原理的に不可能です。そのため、実際には環境モニタリングや個人モニタリングの結果から、線量当量を計算によって算出し、それを等価線量とみなしています。

等価線量限度

等価線量限度とは、臓器ごとに定められた、ある期間内に受けてもよい等価線量の最大値です。これは、個人の全身に対する実効線量限度とは異なる概念です。

日本では、放射線業務従事者の眼の水晶体、皮膚、妊娠中の女性従業員の腹部表面などについて、一年間に受ける等価線量の限度が法律で定められています。

線量当量との違い

等価線量と似た概念に、線量当量（dose equivalent）があります。線量当量もまた、放射線による人体への影響を評価する線量概念ですが、両者には大きな違いがあります。

線量当量は、ある一点における吸収線量に線質係数（放射線の種類によって異なる係数）を乗じたもので、等価線量のように臓器全体での平均吸収線量を用いていません。この点が、線量当量と等価線量の最も大きな違いです。

また、線量当量は、1990年のICRP勧告で等価線量に置き換えられるまで、放射線防護の尺度として用いられていました。

しかし、線量当量は、線量が測定される場所（点）によって値が変わってしまうという欠点があります。そのため、より実態に即した線量評価を行うため、臓器全体の平均吸収線量を基にした等価線量という概念が導入されました。

線量当量の定義

線量当量は、次の式で表されます。

線量当量(H)] = [[[吸収線量]] × [線質係数(Q)]

ここで、Hは線量当量、Dは吸収線量、Qは線質係数を表します。

モニタリングの実用量としての線量当量

等価線量は人体内部の臓器に対して定義されるため、直接測定することが困難です。そのため、放射線モニタリングにおいては、直接測定可能な線量当量を用いています。

モニタリングに用いられる線量当量には、環境モニタリングと個人モニタリングのそれぞれに対応したものがあります。

環境モニタリング

周辺線量当量(H(d))
方向性線量当量(H'(d,Ω))

個人モニタリング

個人線量当量(Hp(d))

これらの線量当量は、実際の放射線管理において重要な役割を果たしています。

その他関連情報

線エネルギー付与（LET）

線エネルギー付与（Linear Energy Transfer: LET）とは、放射線が物質中を通過する際に、単位長さあたりに失うエネルギー量のことを指します。放射線の生物影響は、このLETによって大きく左右されます。

一般的に、LETが大きい放射線ほど生物影響が大きくなるとされています。放射線は、LETの大きさによって、低LET放射線と高LET放射線に分類されます。

低LET放射線: 電子線、ガンマ線、X線など
* 高LET放射線: アルファ線、速い中性子線など

生物学的効果比（RBE）

生物学的効果比（Relative Biological Effectiveness: RBE）とは、異なる種類の放射線が、同じ生物影響を引き起こすのに必要な線量の比率のことです。基準となる放射線（通常は250 keVのX線）と比較して、他の放射線の生物効果の強さを評価します。

高LET放射線は、一般的にRBEが1よりも大きくなります。これは、高LET放射線がより強い生物効果を持つことを示しています。

生物学的等価線量（BED）

生物学的等価線量（Biological Equivalent Dose: BED）は、等価線量と名前が似ていますが、全く異なる概念です。BEDは、放射線治療における分割照射の効果を評価するために用いられる指標です。

まとめ

等価線量は、放射線防護において非常に重要な概念であり、人体各組織・臓器の放射線被曝量を評価する上で欠かせないものです。線量当量との違いを理解し、適切な放射線管理を行うことが重要です。

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