吻

吻：動物の口の多様な突出構造

動物界において、口あるいはその周辺が前方へ突出する構造を「吻（ふん、proboscis）」と呼びます。この吻は動物の種類によってその形態、機能、そして位置が大きく異なり、多様な進化の道を歩んできたことを示しています。

脊椎動物の吻

脊椎動物では、測定部位の名称として、目の前の部分を吻と定義することが一般的です。そのため、必ずしも突き出ている必要はなく、魚類、両生類、爬虫類、哺乳類においてこの定義が用いられています。鳥類は嘴が明確に区別されるため、この分類とは異なります。

多くの魚類では口が吻の先端に開いていますが、軟骨魚類（サメやエイ）では口は体のやや後方下面に開くため、口よりも前に突き出した部分として吻が明確に存在します。特に、ノコギリザメのように著しく発達した吻を持つ種もいます。

哺乳類では、ゾウやバクのように鼻が口よりも前に突き出ているものがいますが、これも吻と呼ぶことができます。ヒトの鼻も広義には吻と言えるでしょう。哺乳類で最も吻が発達しているのはゾウ類です。一方、タツノオトシゴやヨウジウオのように口自体が長く伸びたものも吻と呼ばれます。

無脊椎動物の吻

無脊椎動物における吻は、脊椎動物のものよりもさらに多様性に富んでいます。口周辺の突起を吻と呼ぶ場合も多く、触手との明確な区別は困難です。触手は複数あるのに対し、吻は通常単独ですが、複数持つ種も存在します。また、体内に引っ込めることができる吻と、そうでない吻もいます。

突出する吻

ユムシ類では、口の前に背面で体表と繋がり腹面は粘膜となっている吻を持ち、この粘膜でデトリタスを集めて摂食します。また、この吻は自切する性質を持ちます。ギボシムシ類では、体の先端にある丸い構造を吻と呼びます。

昆虫のゾウムシ類では、頭部前端が棒状に伸びた部分を吻と呼び、その先端に口が開きます。軟体動物の腹足類や多板類では、口の部分が円筒状に伸びて吻となります。

陥入吻

星口動物などに見られる陥入吻は、先端に口があり、体内に完全に引っ込めることができる特殊な構造です。伸ばした状態では先端に口が開き、摂食に使われます。このタイプの吻を持つ動物には、鰓曳動物、動吻動物、胴甲動物などがいます。環形動物の多毛類やハリガネムシの幼生にも似た構造が見られます。これらの構造のいくつかは相同であると考えられています。

吻の多様性

このように、吻は動物界において非常に多様な形態と機能を示します。これは、様々な環境への適応と、多様な摂食方法の進化を反映していると考えられます。今後の研究により、吻の進化過程や、その多様性を生み出した要因がさらに解明されることが期待されます。それぞれの動物の生態や進化の歴史を理解する上で、吻という構造は重要な手がかりとなるでしょう。

参考文献

岡田要、『新日本動物図鑑』（1976）、図鑑の北隆館
椎野季雄、『水産無脊椎動物学』（1969）、培風館

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