周枳井溝

周枳井溝（すきいみぞ）とは

周枳井溝は、1672年（寛文12年）に完成した、京都府京丹後市大宮町周枳地区の田畑を潤すための農業用水路です。竹野川の支流である三重谷川から取水し、隣接する谷内地区、三坂地区を経由して周枳地区へと水を引いていました。

規模と構造

周枳井溝は、現在の京丹後市大宮町谷内地区の平田付近を起点とし、三重谷川に設けられた大堰から取水していました。さらに、奥大野地区の深田から常吉川を堰き止めた水を合流させて、谷内、三坂の耕地を通り、周枳へと水を供給していました。水路の幅は約1.8メートル、全長は約4,800メートルにも及ぶ大規模なものでした。谷内地区に築かれた大堰は、約400個もの石材が用いられており、後に竹野川の改修工事によって約200メートル上流に移設されました。

歴史

築造の背景

周枳地区は、周囲を山に囲まれ、自然の川からの水の供給が少ない地域でした。そのため、農業用水を確保することが長年の課題でした。溜め池をいくつも作りましたが、水不足を解消するには不十分で、田んぼを作ることは困難でした。畑にしようとしても、砂地の土壌のためすぐに乾燥してしまい、農業経営は非常に厳しい状況でした。そこで、明暦年間（1655～1657年）に当時の宮津城主であった京極氏に働きかけ、竹野川からの引水が計画されました。しかし、工事がほぼ完成に近づいたところで、京極氏が領地を没収されたため、工事は中断されてしまいました。その後、寛文8年（1668年）に、新しい領主である永井氏の許可を得て、草井藤助が井溝奉行となり、測量が再開されました。そして、4年の歳月をかけて、寛文12年（1672年）4月に周枳井溝は完成し、周枳地区の約800石（約2,000俵）の田畑を潤すことになったのです。

享保の分水裁判

1725年（享保10年）に丹後地方を大干ばつが襲いました。この時、谷内村と三坂村は、周枳村に対して周枳井溝からの分水を求めました。しかし、周枳村は分ける水がないとしてこれを拒否したため、谷内村と三坂村の住民は、井溝を9カ所も埋め立てて、周枳村に水を通さないという強硬な手段に出ました。この事態に対し、宮津藩が仲裁に乗り出しましたが、当時天領であった谷内・三坂に対して強く出ることができず、久美浜代官所に解決を委ねました。しかし、代官所でも解決には至りませんでした。翌1726年（享保11年）、周枳村は村の代表3名を江戸に派遣し、宮津藩を仲立ちとして幕府の寺社奉行に訴え出ました。その結果、谷内・三坂の代表者が江戸に召喚されて事情聴取が行われ、周枳村の主張が認められました。両村は謝罪状を書き、この一件は解決しました。勝訴を得て帰郷する途上、周枳村の代表は、鎌倉の鶴岡八幡宮で勝訴と今後の和平を祈願し、その分霊を幾坂八幡山に祀り、「井溝八幡」として建立しました。

しかし、取水を巡る村々の争いはその後も絶えず、1826年（文政9年）には、周枳村の者が村役人の指示を待たずに、谷内村や三坂村にかかる掛け樋を周枳村境まで外してしまうという事件が起きています。

谷内大堰

周枳井溝の堰は、本来は常吉川の水を引くためのもので、堰の材料は下常吉の山林から切り出すことが許可されていましたが、大木を運ぶのが困難であったため、毎年春に小材を調達して作り直していました。しかし、小材を組み合わせただけの脆弱な作りであったため、大雨の度に流されてしまうという問題がありました。さらに、規定を破って大きな木を切り出す者がいたり、大量に木材を持ち去る者がいたため、常吉村から用材の切り出しを断られることが度々ありました。1821年（文政4年）以降は、番所を設けて監視人を置くほど、井溝の改修は村々の大きな負担となっていました。

1860年（安政7年）、谷内地区の宮の奥山で大きな石が発見されたため、時の領主である松平氏に願い出て、堰を石材で作り直す許可を得ました。奥大野村の石工の指揮のもと、1尺2寸角で長さ1間以上の切石400本以上を切り出し、1列に約50本、1段ごとに1尺2寸後退させて8段に積み上げ、高さ9尺6寸の大堰を築きました。これが「谷内大堰」と呼ばれるものです。谷内大堰は、1859年（安政6年）に着工し、1860年（万延元年）5月に完成しました。1890年（明治23年）の増水で一部が損壊しましたが、すぐに復旧されました。1973年（昭和48年）の河川改修で撤去されるまで、周枳井溝の堰としてその役割を果たしました。その壮観さは、明治・大正期には「丹後一のナイヤガラの滝なり」と称賛されたほどでした。

井溝の廃止

1972年（昭和47年）の台風20号によって、竹野川流域は大きな被害を受けました。その復旧事業として、1973年（昭和48年）に竹野川の全面的な河川改修工事が行われ、周枳井溝は上部の中田堰と統合される形で廃止されました。この時、撤去された谷内大堰の石材の一部は、周枳区民グラウンドに保管されています。さらに、1984年（昭和59年）には、谷内地区の圃場整備事業によって、谷内地区を縦断していた周枳井溝は撤去され、代わりに専用の水路が建設されました。現在は、農業用と生活用の水路が設けられ、一部は旧来の水路がそのまま活用されています。周枳と谷内の両地区では、1985年（昭和60年）以降、水路の分水量を周枳70センチメートル、谷内90センチメートルとし、自然分水によって取水する協定が結ばれています。

現在

21世紀現在、周枳井溝は、三坂から周枳公民館付近までの水路にわずかにその痕跡を留めるのみとなっています。撤去された堰に使われていた石材の一部は、「石明神遺蹟」として保存されており、周枳井溝の歴史を今に伝えています。

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