呪術医

呪術医：超自然の力による医療と社会との関わり

呪術医、あるいは呪医とは、医療行為の根拠を超自然的な力に求める者、もしくはそうした能力を持つと周囲から信じられている者を指します。彼らは、病状の診断にトランスや占いなどを用い、治療には治療儀礼などを執り行うことがありました。必ずしも伝統的な組織に所属しているわけではなく、現代社会においてもその活動は確認できます。

医療的多元論と呪術医の役割

医療は、医学に基づく制度医療だけではありません。家庭療法、信仰、薬局、伝統医療、非伝統医療など、様々な要素が複雑に絡み合っています（医療的多元論）。制度医療は科学的根拠に基づいて普遍的な医療を目指しますが、呪術医は、独自の超自然的な世界観や身体観に基づいて医療を行います。

呪術医は、病気や怪我の治療だけでなく、不幸や恨み、妬みの解消といった役割も担ってきました。そもそも何を医療の対象とするかは社会的に決定されるものであり、恨みや妬みの解消が結果的に病の回復につながる場合もあるため、そうした社会的な役割も呪術医の仕事の範囲に含まれます。また、薬草や民族科学に基づいた治療が、他の文化圏では呪術的な医療とみなされることもあります。

社会と呪術医：信仰と社会的地位

レヴィ＝ストロースは、呪術医の存在は「呪術師自身の術への信仰」「患者や犠牲者の呪術師への信仰」「集団的世論の信頼と要求」の三つの相関関係によって成り立っていると指摘しました。呪術医の効力は、社会からの認知と信頼によって支えられています。

科学の発展は、呪術医の経験や知識を科学的に裏付け、近代医療へと発展させました。しかし、現代医療でも治せない病気は多く、現代社会においても、心理的な不安から呪術医を頼る人は少なくありません。特に高齢者の間では、長年伝わる民間療法が、病気を癒やし、害悪を退ける力を持つと信じられています。

原始社会と医療：死と霊的な力

原始社会において、死は避けられない運命と認識されていましたが、人々は目に見えない霊的な力を呼び寄せたり遠ざけたりすることで、寿命を延ばそうと考えました。呪術的思考では、死神や霊、精霊などが人間の生死に影響を与えると考えられていました。

呪術医の知識体系は、長年にわたる症例研究と薬草に関する情報の蓄積に基づいており、特に風土病に対する治療効果が認められるケースもあります。原始社会では、呪術医はシャーマンとしての役割も担うことが多く、天候や災害といった「自然環境の健康」をも治療できると信じられていた地域もありました。

中世の社会と呪術医：宗教勢力との葛藤

中世になると、社会が階層化し、神秘主義者は社会のヒエラルキーから外れていきました。呪術医も社会の支持基盤を失いつつありました。しかし、民衆の間では民間医療を担う存在として重宝されました。

宗教勢力が台頭すると、呪術医は迫害を受け、自身の神秘主義を捨てて医療に専念するか、迫害されるかの選択を迫られました。多くの呪術医は、宗教に改宗したり、科学的に知識体系を再構築して医者になったと考えられます。中世ヨーロッパでは、魔女狩りなど、宗教勢力による弾圧が多数発生し、呪術医は大きな打撃を受けました。

近代社会と呪術医：西洋医学との共存と対立

近代において、西洋医学が急速に発展しました。しかし、外科手術や薬物治療に対する不信感も存在し、伝統的な呪術やまじないに執着する人もいました。西洋医学は、精密な研究と知識に基づいて発展し、社会的地位を獲得しましたが、当初は高価なため、労働者階級は民間療法に頼るしかなかったのです。

発展途上国でも、西洋医学が拒絶され、伝統的な医療が続けられているケースがあり、甚大な被害をもたらすこともあります。一方で、西洋医学は、先住民族の民間療法から薬効のある成分を発見し、近代薬学の発展に貢献しました。しかし、植民地政策によって、先住民族の文化や知識が否定された側面もあります。

現代社会と呪術医：伝統医療の再評価と疑似[[科学]]の問題

現代では、鍼灸などの東洋医学も西洋医学で一定の効果が認められ、広く利用されています。しかし、根拠のない心霊医療なども流行し、社会問題となっています。肉体と精神の健康の不可分という考え方が広まる中、プラシーボ効果なども影響し、呪術医への関心は根強く残っています。

その他

この記事では、幻覚剤の使用やコンピュータゲームへの登場、ライフスペース・ミイラ事件なども紹介しました。呪術医は歴史、文化、社会と深く関わってきた存在であり、その存在意義や問題点は現代社会においても重要な議論の対象となっています。

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