命売ります

『命売ります』概説

三島由紀夫による『命売ります』は、1968年に発表された長編小説である。この作品は、自殺を試みたものの失敗した主人公が、自らの命を売りに出すという型破りなストーリーを展開する。本作は、主人公・山田羽仁男と、彼を利用しようとする様々な依頼者たちとの関係を描き、死と生の逆説をユーモラスなタッチで描くことに成功している。

あらすじ

物語の中心は27歳のコピーライター、山田羽仁男である。彼は、自らの存在に無意味さを感じ、突如として自殺を試みるが失敗する。その後、羽仁男は自由な世界を理解することになり、三流新聞に「命売ります」という広告を掲載し、自室のドアには「ライフ・フォア・セイル」としゃれた言葉で自らの目標を掲げる。

彼のもとには早速、初めての依頼が舞い込む。依頼者は老齢の男で、若い妻が他の男に取られたことを悔いていた。羽仁男に妻の愛人を殺してほしいと依頼するが、事は簡単ではなく、再度命を危険にさらされる。

次の依頼者は、薬の実験台にされることを望む女司書であり、彼女もまた羽仁男に命を売ってもらおうとする。羽仁男は次々と依頼を受けるが、そのたびに命の危険に晒されつつも生き延びていく。こうした依頼の中で、人間関係や愛情、裏切りが交錯し、羽仁男はさまざまな経験を通して自らの存在意義を問うことになる。

事件の転機

羽仁男の運命の歯車が大きく動くのは、ある日彼が洋館の地下室に誘拐される場面である。そこで彼は、秘密組織ACSに関与する者たちと対面し、自身をおとり捜査官だと思われてしまう。この組織との関わりは、作品のクライマックスにおいて決定的な役割を果たす。

羽仁男は、様々な局面で命を懸けた選択を迫られ、そのたびに逃げおおせることができるが、果たして彼の命は本当に売られてしまっているのか、それとも彼が選択の自由を持っているのか。

書籍の概要と評価

『命売ります』は、1968年5月から10月にかけて週刊プレイボーイに連載され、その後同年末に集英社から単行本として刊行された。文庫版や翻訳版も出ており、特に近年では再評価が進んでいる。作品内には三島由紀夫自身の内面が反映されている意義深い作品とも言われ、彼の作品を題材にした作品も存在する。

また、同作はラジオドラマやテレビドラマ化もされ、特に2018年に放送された連続ドラマが話題を集めた。これは原作の持つテーマが現代にも通じることを証明している。

振り返り

三島由紀夫の『命売ります』は、命を売るという奇想天外なストーリーの中に、深い哲学的テーマを秘めた作品であり、ユーモラスである反面、現代社会における生と死に関する鋭い考察がなされている。作品を通じて、軽快なタッチで描かれたストーリーの裏に潜む人間の本質や存在意義が問われる。この作品は、娯楽として楽しむだけでなく、読者に深い思考を促す力を持っている。

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