命長ければ恥多し

命長ければ恥多し（いのちながければはじおおし）

「命長ければ恥多し」とは、長く生きることが時として恥をかく要因になるということを表す故事成語です。この言葉は、人生の長さに伴い、様々な痛みや困難、恥辱が伴うことを警告しています。つまり、長生きすることが必ずしも良いことばかりではなく、年を重ねることで直面する問題もあるという意味が込められています。

この成語の原典は、中国の古典『荘子』に収められています。『荘子』は哲学的な教えや生き方を示した書物で、特に道教に影響を与えた作品として知られています。その中のエピソードでは、古代の聖人で五帝のひとりである堯が登場します。彼は長生きを祝う声に対し、率直に遠慮の意を示します。「長生きすれば恥辱も多い」と語る彼の言葉は、長寿がもたらす悩みの深さを物語っています。これを通して、堯は人生の本質や快適さ、そして自分の位置を見つめ直すことの大切さを伝えています。

堯のエピソード

堯が華の役人に「長生きしますように」と祝福された際、彼はまずその願いを断ります。「富や男子が多く生まれますように」との願いにも同様に応えます。役人が不思議がるなかで堯は、これらが必ずしも喜びをもたらすものではないと説明します。男子が多ければ多いほど心配が増え、富があればその管理や問題が増える。そして長生きすれば、恥をかくことも増えるというのです。つまり、堯は長寿、富、男子を求めることが徳を育むことには結びつかないとしています。

このエピソードでは、堯の考えが彼の抱える価値観を反映しており、世の中の物事に対する冷静な見方とともに、名誉や地位、富といったものが必ずしも幸福には結びつかないことを示唆しています。堯の考えは当時の人々にとって、大いなる示唆を与えるものであったといえるでしょう。

『徒然草』との関連

日本においても、この考え方は受け継がれています。兼好法師が著した随筆『徒然草』の中では、「命長ければ恥おおし」と記し、彼自身が40代後半に差し掛かっている時期に、長生きが必ずしも素晴らしい結果をもたらさないと述べています。彼は、長生きすることがかえって疲労や恥をもたらすのではないかと考えていたようです。これらの思想は、特に彼の時代において人々が長寿についての価値観を見直すきっかけを提供しました。最終的に、兼好は70歳を超えて長生きをしましたが、それだけでいいとは思っていなかったのかもしれません。

結論

「命長ければ恥多し」という言葉は、長寿の裏に存在する複雑な事柄を考えるための良い教訓となります。長生きするためには、ただ数字を追うのではなく、自分自身の心の平穏や内面的な成長に目を向ける必要があるのです。この成語は、人生を空虚なものにせず、意味のあるものとして生きるための大切な視点を我々に提供しています。

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