和歌山テレビ送信所・中継局

和歌山県和歌山市木ノ本字目女谷、通称「甲山」と呼ばれる場所に、地域におけるテレビ放送の要衝である和歌山テレビ送信所・中継局が設置されています。この施設は、複数の放送局の役割を兼ね備えており、和歌山県北部の広い範囲にわたって安定したテレビ電波を供給する基幹的な役割を担っています。

具体的には、NHK和歌山放送局の総合テレビジョンと、県域独立放送局であるテレビ和歌山の「親局」として機能しています。親局とは、その放送局の放送エリア全体をカバーするための最も重要な送信所のことです。したがって、和歌山県北部の多くの世帯が、この送信所から発射される電波を受信して、NHK総合やテレビ和歌山の番組を視聴しています。

同時に、この送信所は「中継局」としての機能も果たしています。対象となるのは、NHK大阪放送局の教育テレビジョン（現在のEテレ）と、大阪に拠点を置く主要な広域民放テレビ局、すなわちMBSテレビ、朝日放送テレビ、関西テレビ放送、讀賣テレビ放送などです。これらの放送局は本来、大阪など京阪神地域を主要な放送エリアとしていますが、和歌山テレビ送信所・中継局が中継することで、県北部の視聴者もこれらの広域放送を受信できるようになります。これにより、県境を越えた多様な番組へのアクセスが可能となっています。

現在主流となっているデジタルテレビ放送についても、この和歌山テレビ送信所・中継局から電波が発射されています。所在地は、前述の通り和歌山市木ノ本字目女谷1796番地、甲山に置かれています。アナログテレビ放送が行われていた時代も、同じ場所に送信所が設置されており、長年にわたって地域へのテレビ放送に貢献してきました。

テレビ放送以外では、かつてV-Highと呼ばれる方式のマルチメディア放送もこの送信所から行われていました。このサービスは、特定の受信端末（主にスマートフォンやタブレットなど）に向けて、映像や音声、データなどのコンテンツを配信するものでした。その開始までの経緯は以下のようになっています。まず、2012年8月29日には、このV-Highマルチメディア放送を行う「移動受信用地上基幹放送局」として、総務省近畿総合通信局より予備免許が交付されました。これを受けて、放送事業者であるジャパンモバイルキャスティングは、同年9月18日に試験放送を開始しました。試験電波の発射については、同社からリリースも行われています。そして、同年11月13日には正式な本免許が交付され、そのわずか二日後の11月15日から、いよいよ本格的な本放送が開始されました。このマルチメディア放送は、テレビ放送とは異なる新しい形態の放送サービスとして、一時期この送信所から提供されていました。

このように、和歌山テレビ送信所・中継局は、NHK和歌山総合やテレビ和歌山の県域放送を県北部へ届ける親局として、また、NHK教育や在阪広域民放の広域放送をカバーエリアに含めるための中継局として、和歌山県におけるテレビ放送インフラの非常に重要な役割を担っています。甲山という立地から、地形的な制約を受けやすい地域にも効果的に電波を送信しており、多くの県民が日常的にテレビ放送を享受するために不可欠な存在です。デジタル放送への移行や、過去のマルチメディア放送の実施など、時代の変化に対応しながら、常に地域への情報伝達に貢献してきた施設と言えるでしょう。

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