和田伸也

和田 伸也（わだ しんや、1977年7月9日 - ）は、国際パラリンピック委員会が定める世界パラ陸上競技の視覚障害クラスT11（最も視覚障害の重いクラス）で活躍する日本のマラソンランナー、陸上競技選手である。大阪府出身、株式会社長瀬産業に所属する。

彼の競技キャリアは輝かしい実績に彩られている。2012年のロンドンパラリンピックでは、男子5000メートルで銅メダルを獲得し、世界の舞台にその名を刻んだ。翌2013年にはIPC陸上競技世界選手権大会のマラソンで銀メダルを獲得。2014年に韓国・仁川で開催されたアジアパラ競技大会では、出場した800メートル、1500メートル、5000メートルの全3種目を制覇し、圧倒的な強さで三冠を達成した。2016年のリオパラリンピックでも3種目全てで入賞を果たし、特に1500メートルでは自身の持つ日本記録を予選・決勝で更新した。2017年にはロンドンマラソン共催の世界パラ陸上競技マラソン・ワールド・カップで国際大会初のマラソン金メダルに輝くなど、主要大会で常に上位争いを演じている。

特に、クラスT11における800メートル、5000メートル、10000メートル、そしてマラソンでアジア記録および日本記録を保持しており、1500メートルでも日本記録を樹立するなど、多くの種目で国内トップ、アジアトップの記録を打ち立てている。また、2016年には全盲ランナーとして日本で初めて、健常者のエリートマラソンである福岡国際マラソン選手権大会に出場。自己ベストとなる2時間32分11秒を記録し、当時のT11クラス世界記録にわずか12秒と迫る快走を見せた。

2021年の東京パラリンピックでは、男子5000メートルでロンドン大会以来となる銅メダル、1500メートルでは銀メダルを獲得し、母国開催の舞台で二つのメダルを手にした。さらに、最終日のマラソンでは、より視覚障害の軽いクラスT12の選手との混合レースとなる中で9位となりながらも、2時間33分5秒という記録でパラリンピック記録およびアジア記録（IPC非公認とされる福岡国際の記録を除く）を更新し、大会を締めくくった。

和田の競技人生は、視覚障害という困難と共に歩んできた。幼少期から視力に問題を抱えながらもスポーツを愛し、中学校ではラグビーに打ち込んだ。しかし、高校時代に診断された網膜色素変性症により視力は徐々に失われ、競技生活の中断を余儀なくされる。関西大学入学後、視覚の衰えを補うため点字や白杖歩行の訓練を受け、勉学を継続。大学院修了後は視覚障害者支援に関わる仕事に就き、点字製作などに携わった。

再び競技の世界へ踏み出すきっかけとなったのは、社会人となり運動不足解消のために参加した視覚障害者のランニングクラブだった。走ることに魅せられ、次第に競技としてのマラソンに取り組むようになる。2007年に初のフルマラソンを完走し、翌年にはサブスリーを達成。その実力が認められ、日本盲人マラソン協会の強化指定選手に選出されたことで、世界を目指すアスリートとしてのキャリアが本格的に始まった。

和田の躍進を語る上で欠かせないのが、長年にわたりパートナーを務めるガイドランナーの中田崇志氏をはじめとする伴走者たちの存在である。中田氏は和田の初対面時のダッシュから、その高いスプリント能力と5000メートルでの潜在的な適性を見抜き、メダル獲得という共通の目標に向かって二人三脚でトレーニングを積んできた。スプリント能力の高い和田のために、伴走ロープはあえて長めのものを使用するなど、個々の特性に合わせた工夫も凝らされている。また、二人は普段離れた地域で活動しているが、GPSウォッチなどを活用し、練習データを詳細に共有することで、離れていても質の高いコミュニケーションと効果的なトレーニングを実現している。これは、最新技術を取り入れたチームとしての取り組みの好例と言えるだろう。

数々の国際大会でのメダルや記録樹立に加え、国内での多数の受賞歴やメディアへの露出などを通じ、和田伸也は視覚障害者スポーツの可能性を示す存在として、多くの人々に感動と勇気を与え続けている。

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