哀愁物語 -哀愁にさようなら-

哀愁物語 -哀愁にさようなら-

1987年5月21日にCBSソニーからリリースされたシングル「哀愁物語 -哀愁にさようなら-」は、シンガーソングライター村下孝蔵と歌手・中林由香によるデュエット楽曲です。村下にとっては、デビューから8年目にあたる時期に発表された通算11枚目のシングルとして位置づけられます。

楽曲解説

タイトルチューンである「哀愁物語 -哀愁にさようなら-」は、同年にリリースされた村下のオリジナルアルバム『陽だまり』にも8曲目として収録されました。楽曲構成は、曲の冒頭部分で村下と中林が一緒に歌うデュエット、続く中盤では二人がソロパートを交互に担当し、サビ部分では再びデュエット形式に戻るという特徴を持っています。楽曲は全体として二部構成となっており、最後のコーラス部分は一部が省略されて一度繰り返された後、後奏へと移行し、徐々に音が消えていくフェードアウトで閉じられます。

シングルのカップリング曲として収められたのは「美し過ぎるミステイク」です。この楽曲はオリジナルアルバムには収録されず、後に発表されたベストアルバム『歌人II』の9曲目に収められています。こちらの楽曲構成もデュエットを基調としており、冒頭からサビの手前までは中林と村下がソロパートを交互に歌い進め、サビ部分でデュエットとなります。こちらも二部構成ですが、二番の後に短いフレーズが挿入され、特別な歌詞で一度サビが繰り返された後、後奏を経てフェードアウトで終了します。

デュエットの背景

普段はシンガーソングライターとして自身の楽曲を単独で歌うスタイルを取っていた村下孝蔵が、このシングルでデュエット形式を選んだことは異例でした。その背景には、共演相手である中林由香を取り巻く状況が大きく影響しています。中林由香は村下と同郷の高校生で、ある音楽祭での優勝を契機に村下の所属事務所にスカウトされ、このシングルの前年、『わが子よVI』の主題歌「輝きたいの」で歌手としてデビューを果たしていました。しかし、このデビュー曲が商業的な成功には至らなかったため、すでに人気を博していた村下孝蔵とのデュエットという形が、打開策として苦慮の末に取られることになったのです。しかしながら、中林は学業と歌手活動の両立が困難となり、このシングル発表後間もなく音楽活動から身を引き、学業に戻りました。結果として、「哀愁物語 -哀愁にさようなら-」と「美し過ぎるミステイク」が、彼女にとっての最後の音楽作品となったとされています。

クレジット

本シングルに収録された「哀愁物語 -哀愁にさようなら-」および「美し過ぎるミステイク」は、いずれも作詞を阿久悠が、作曲を村下孝蔵が、編曲を水谷公生が手掛けています。日本を代表する作詞家である阿久悠が、村下のメロディーに言葉を与えた作品群の一つとしても位置づけられます。

その他

シングルのジャケットデザインも印象的です。村下孝蔵と中林由香を示唆していると思われる男女が、昭和30年代の映画館で見られたような手書き看板のタッチで描かれており、当時のシングルジャケットとしては独特の雰囲気を醸し出していました。このデザインもまた、作品の「哀愁」というテーマや、時代背景を感じさせる要素となっています。

このシングルは、村下孝蔵のキャリアにおける異色作であると同時に、中林由香という一人の歌手が残した貴重な記録としても記憶される作品と言えるでしょう。

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