品川用水

品川用水：その歴史と変遷

品川用水は、かつて現在の東京都品川区を中心とした地域に農業用水を供給していた用水路です。玉川上水の分水路として、その最長級の一つであり、『上水記』によれば、その長さは7里半（約30km）にも及んだとされています。この用水路は、明治時代末期から大正時代にかけての市街化の進展に伴い、工業用水路や排水路へと役割を変化させ、最終的には昭和20年代後半に埋め立てられ、その姿を消しました。

概要

品川用水の大部分は暗渠化または埋め立てられていますが、その存在は今もなお、地域の歴史を語る上で重要な要素です。渡部一二氏による資料調査や実地調査は、その足跡を詳細に記録し、区や市ごとに刊行されています。

玉川上水からの取水口は現在の東京都武蔵野市境に位置し、三鷹市、世田谷区、目黒区を経由して品川区へと流れていました。品川区内では、地蔵の辻（現在の後地交差点）で二手に分かれ、一方は桐ヶ谷村（現在の西五反田）から居木橋村（大崎）へと現在の百反通り沿いに流れ、目黒川に合流しました。もう一方は、平塚橋で中原街道を越え、現在の補助26号線を通って下蛇窪村（戸越）から上蛇窪村（二葉）、大井村（大井）へと続いていました。さらに、細川家下屋敷（現在の戸越公園）を経由し、南品川宿や二日五日市村（西品川、広町など）を北上して目黒川に注いでいました。この他にも、多くの分水や末流が存在していました。

沿革

仙川用水

品川用水の前身とされる仙川用水は、正確な開削時期は不明ですが、江戸時代初期に開削されたとされています。これは、上仙川村、中仙川村、金子村、大町村（現在の三鷹市と調布市の一部）の四ヶ村の水田を潤すために作られました。千川上水とは別の水路です。

戸越上水

1663年（寛文3年）から翌年にかけ、熊本藩主細川綱利の弟、細川利重が細川家下屋敷（現戸越公園）の庭内泉池用水として、仙川用水から分水し開削したのが戸越上水です。この時点では、玉川上水の境分水口から戸越上水への分岐点である野川分水口までは仙川用水、野川分水口から細川家下屋敷までが戸越上水でした。

品川用水の成立

1666年（寛文6年）、戸越上水は廃止されました。理由は定かではありませんが、泉池用水としては庭内の湧水で十分だったか、水路維持費が過大であったためと考えられています。その後、品川領の二宿七ヶ村（北品川宿、南品川宿、戸越村、上蛇窪村、下蛇窪村、桐ヶ谷村、居木橋村、大井村、二日五日市村）が灌漑用水としての利用を要望し、1667年（寛文7年）に許可されました。1669年（寛文9年）には水路の拡幅工事が行われ、仙川用水のうち境分水口から野川分水口までの区間を含めて品川用水となりました。

拡張工事にあたり、旧仙川用水流域や世田谷領の各地には土地の提供に対する補償が行われましたが、これが後に水利権を巡る紛争の原因となりました。干ばつ時には品川領で水不足が発生し、上流の分水口を廃止するように訴えが起こりました。

1691年（元禄4年）には、再び拡張工事が行われましたが、水路の維持管理費用は流域の村々が負担したため、水利権を巡る紛争は続きました。また、盗水や水路破壊事件も頻発しました。

明治以降

1868年（慶応4年）の明治維新により、玉川上水と神田上水は新政府に接収され、品川用水も新政府の管理下に入りました。1871年（明治4年）には東京府に移管され、地租改正によって新井宿村と下大崎村が品川組合に加わり、1876年（明治9年）には両村が品川用水組合に加入しました。これにより、仙川組四ヶ村と品川領九宿村からなる品川用水組合は、四ヶ村十一宿村体制となりました。

1890年（明治23年）に水利組合条例が通達されると、品川用水組合は改組され、品川用水普通水利組合となりました。

1932年（昭和7年）には品川用水普通水利組合が解散し、用水の管理は三鷹町（現在の三鷹市）に移管され、灌漑用水としての役割を終えました。その後、部分的に暗渠化され排水路などとして利用された後、開渠部分も1950年（昭和25年）から1952年（昭和27年）にかけてゴミなどで埋め立てられ、姿を消しました。

年表

1663年（寛文3年）：戸越上水開削。
1666年（寛文6年）：戸越上水廃止。
1667年（寛文7年）：願いにより品川用水となる。
1669年（寛文9年）：第一次拡張工事。
1689年（元禄2年）：品川領九宿村が世田谷への分水停止を訴える。
1690年（元禄3年）：品川領九宿村が上仙川村の分水口を閉鎖するよう訴える。
1691年（元禄4年）：第二次拡張工事。
1697年（元禄10年）：上仙川村での水車使用問題。
1739年（文久4年）：地蔵の辻分水樋脇破壊事件。
1820年（文政3年）：上仙川村・中仙川村との用水量争い。
1834年（天保5年）：世田谷領上馬引沢地内大松山で盗水事件。
1837年（天保8年）：大旱魃、上馬引沢村と碑文谷村で盗水事件。
1852年（嘉永5年）：世田谷村地内横根で盗水事件。
1891年（明治24年）：水利組合条例により「品川用水普通水利組合」設置が東京府知事より認可。
1892年（明治25年）～1893年（明治26年）：上蛇窪分水口事件。
1932年（昭和7年）：品川用水普通水利組合が解散、品川用水は三鷹町に移管される。
1950年（昭和25年）～1952年（昭和27年）：埋め立て。

関連項目

玉川上水
戸越公園
しながわ中央公園

参考文献

品川用水沿革史編纂委員会編『品川用水沿革史』（1943年、品川用水普通水利組合）
東京都世田谷区教育委員会『世田谷の河川と用水』（1977年、同委員会）pp.57-74

外部リンク

明治維新後の品川 第17回 維新後の品川用水 その1～維新の不安とその後の管理～
明治維新後の品川 第18回 維新後の品川用水 その2～水車営業と水争い～

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