唐書

唐代の歴史を伝える三つの「唐書」

中国の歴史において、唐王朝（618年 - 907年）は文化、経済、政治の各方面で大きな発展を遂げた重要な時代です。この唐代の歴史を後世に伝えるために、複数の歴史書が編纂されました。特に重要なものとして、『旧唐書』、『新唐書』、そして『旧五代史』に含まれる「唐書」があります。これらの書物は、唐代史を研究する上で欠かせない基本史料となっています。

旧唐書

『旧唐書』は、後晋の劉昫（りゅうきょ）らによって編纂された、唐代の正史です。成立は後晋の開運2年（945年）です。紀伝体で構成され、高祖から昭宣帝までの約300年間の歴史を記しています。帝紀（皇帝の記録）、志（制度や文化）、列伝（人物の伝記）から成り、唐代の政治、社会、文化、経済など、多岐にわたる情報を網羅的に記録しています。編纂にあたっては、唐代の豊富な記録や資料が参照されましたが、その一方で、資料の選択や記述において、編纂者の主観や意図が反映されている点にも注意が必要です。

特に、『旧唐書』の特色として、詳細な人事記録や、制度の変遷に関する記述が挙げられます。また、当時の社会情勢や人々の生活ぶりをうかがい知ることができる記事も多く、唐代史研究における基礎史料として、今日に至るまで高く評価されています。しかし、編纂時期が唐代からやや隔たっているため、資料の取捨選択や事実関係において、誤りや欠落が見られることも指摘されています。

新唐書

『新唐書』は、北宋の欧陽脩（おうようしゅう）や宋祁（そうき）らによって編纂された、唐代の正史です。成立は、北宋の嘉祐5年（1060年）です。こちらも紀伝体で構成されていますが、『旧唐書』の記述を修正・補完する目的で編纂されました。そのため、内容的には『旧唐書』と重複する部分が多く見られますが、記述の整理や解釈において、新しい視点や批判的な視点が導入されている点が特徴です。

『新唐書』は、『旧唐書』に比べて、より簡潔で洗練された文章で記述されています。また、史料批判の精神が強く、より厳密な考証に基づいた記述がなされていると評価されています。ただし、編纂者の思想や歴史観が反映されているため、記述内容を鵜呑みにすることはできません。特に、人物評価や政治的な解釈においては、『旧唐書』と異なる見解が示されていることもあります。

旧五代史内の「唐書」

『旧五代史』は、薛居正（せつきょせい）らによって編纂された、五代（後梁、後唐、後晋、後漢、後周）の歴史書ですが、その中に唐代の歴史を記した「唐書」が含まれています。この「唐書」は、五代の混乱期に編纂されたため、内容の信憑性や記述の正確性に問題がある部分も指摘されています。また、記述が非常に簡略であるため、唐代史を研究する上での資料としての価値は、『旧唐書』や『新唐書』に比べて劣るとされています。

しかし、この「唐書」は、『旧唐書』や『新唐書』とは異なる視点や情報を提供している可能性があり、史料を多角的に検証するためには重要な資料の一つです。特に、五代の政治情勢や社会状況を理解する上で、その役割は無視できません。また、失われた史料を部分的に伝えている可能性も指摘されており、その研究価値は決して低くありません。

まとめ

『旧唐書』、『新唐書』、『旧五代史』内の「唐書」は、それぞれ異なる時代背景と編纂目的を持っており、記述内容や特徴も異なります。唐代史を研究する際には、これらの歴史書を相互に参照し、批判的な視点を持って分析することが重要です。これらの史書を総合的に検討することで、唐代の歴史像をより深く理解することができるでしょう。また、これらの史書は、中国の歴史記述の伝統や、歴史研究の方法論を理解する上でも、重要な資料となっています。

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