唾液腺涙腺炎

唾液腺涙腺炎（sialodacryoadenitis）は、ラットに特有の感染症であり、唾液腺涙腺炎ウイルス（Sialodacryoadenitis virus：SDAV）の感染によって引き起こされます。このウイルスは、コロナウイルス科コロナウイルス属に分類されるRNAウイルスです。

感染経路は主に呼吸器を介した飛沫感染と、感染した動物との直接的な接触です。感染が成立すると、ラットは特徴的な症状を示すようになります。最も顕著な症状の一つが、下顎腺の腫脹による頚部の膨大です。これは、顎の下の領域が大きく腫れ上がる状態を指します。また、涙腺の腫脹によって眼球が突出する症状も見られます。

唾液腺涙腺炎の診断は、これらの臨床症状に基づいて行われます。しかし、確定診断にはウイルス学的検査が必要となる場合があります。感染したラットは、これらの症状の他に、活動性の低下や食欲不振を示すこともあります。

残念ながら、唾液腺涙腺炎に対する有効な治療法は確立されていません。そのため、感染予防が非常に重要になります。予防策としては、実験室内での適切な衛生管理、感染動物の早期発見と隔離、そして新たなラットの導入時に感染がないかを確認することが挙げられます。

唾液腺涙腺炎はラットの健康を著しく損なう可能性のある感染症であり、実験動物を用いた研究においても、その影響は無視できません。そのため、研究者は感染リスクを最小限に抑えるための適切な対策を講じる必要があります。唾液腺涙腺炎の発生を未然に防ぎ、研究データの信頼性を維持するためにも、感染予防は常に最優先事項として考慮されるべきです。

関連事項としては、実験動物における感染症全般の知識が重要となります。また、感染症に関する参考文献は、本疾患に対する理解を深める上で不可欠です。

参考文献
* 清水悠紀臣ほか　『動物の感染症』　近代出版　2002年　ISBN 4874020747

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