商事会社

「商事会社（しょうじがいしゃ）」という言葉は、過去の日本の法制度において用いられた概念であり、現代の日本の法律には存在しません。この用語は、商業的な活動、すなわち商行為をその事業の主要な目的として設立された会社を指していました。

この概念は、フランス法における「ソシエテ・コメルシアル（société commerciale）」などの訳語として日本に導入されたものです。フランス法では、「ソシエテ（société）」という言葉は、共同で事業を行う組織全般を意味し、日本の「会社」や「組合」に相当する広がりを持ちます。そのソシエテの中でも、商業的な性質を持つ活動を主とするものがソシエテ・コメルシアルと呼ばれました。これに対して、商業以外の民事的な活動を主な目的とする組織は「ソシエテ・シビル（société civile）」と呼ばれ、これは日本の民法上の「組合」に近いものとされていました。日本の旧民法において、「商事会社」や、それと対比される「民事会社」という区分が存在したのは、このようなフランス法の考え方に倣ったためです。

旧民法の下では、会社はその事業の性質によって商事会社と民事会社に区分されました。商事会社は、文字通り商行為を業として行うことを目的とする会社であり、株式会社、合名会社、合資会社などが含まれました。これに対し、民事会社は商行為以外の事業を目的とする会社を指しましたが、実際には設立されるケースは限定的でした。この区分は、会社の設立や運営に関する一部の法的な取り扱いに影響を与えました。

しかし、現代の日本の会社法では、このような商事会社と民事会社という区分は用いられていません。現在の会社法は、営利を目的とする組織を広く「会社」として捉え、その設立や運営に関するルールを定めています。したがって、「商事会社」という言葉は、歴史的な文脈で旧法制度について語る際に使われる概念となっています。

現代の日本において「商社」と呼ばれる企業群は、輸出入貿易や国内での商品販売といった、まさに商業活動をその事業の中核としています。これらの企業は、その名称や業務内容から、かつて「商事会社」という言葉が含意していた商業活動を重視する企業像を強く連想させます。しかし、「商社」はあくまで特定の業態や事業内容を持つ企業群に対する通称であり、法的な会社の種別として「商事会社」が存在するわけではない点に注意が必要です。現代の「商社」は、法律上は株式会社などの現在の会社形態をとっています。

このように、「商事会社」は日本の法制度の歴史において存在した概念であり、現代の「商社」は名称や業務内容においてかつての商事会社のイメージを引き継ぎつつも、法的な位置づけは異なっています。

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