商的工業簿記

商的工業簿記の概要

商的工業簿記（しょうてきこうぎょうぼき）は、主として製造業において商業簿記の技法を用いて取引を記帳する方法です。この技法では、材料や仕掛品、製品などの棚卸資産に関して、決算時に棚卸高を算出します。この算出には、期首棚卸高、当期受入高、期末棚卸高の関係を用います。具体的には、次の式で計算されます：

\[ 棚卸高 = 期首棚卸高 + 当期受入高 - 期末棚卸高 \]

商的工業簿記は、不完全工業簿記とも称され、通称「丼勘定」とも呼ばれる手法です。

歴史的背景

商業資本主義の形成期には、商的工業簿記により企業活動が記録されていました。しかし、産業革命が進む中で工場制企業が増加し、より精密な原価測定が要求されるようになりました。その結果、原価計算の技術が発展し、商的工業簿記は徐々に使用されなくなりました。現在では、日本の中小企業において一部残存していますが、主流ではありません。

計算方法について

商的工業簿記では、製品の原価を簡便に計算できる一方で、詳細な原価計算が行われないため、実際のコスト把握に苦労することもあります。特に、製品原価や期中の損益が不明瞭になるため、決算時にならなければ企業の黒字・赤字を把握できないことが少なくありません。

長所と短所

長所

1. 記帳作業の簡略化
商的工業簿記の最大の利点は、入出庫ごとに逐次的な記帳を行わなくても良い点です。これにより、事務手続きが大変シンプルになり、決算書作成の際に必要な手間を大幅に削減できます。仕入れ高を記録し、決算時に期末材料高との差を計算するだけで済むため、効率的と言えます。

短所

1. 正確性の懸念
簡便な原価計算法であるため、厳密な会計処理に比べて多くの欠点があります。以下に主なデメリットを挙げます。
- 製品の原価が正確に把握できない。
- 期中の損益を把握できないため、決算時になって初めて利益や損失が明らかになる。
- 実際の消費高が把握できないため、棚卸減耗の状況もわからない。
- 消費高の内訳が不明なため、棚卸資産の無駄や損失などの把握が困難。
- 予定価格を用いることができないため、原価変動を防ぐ手立てがない。
- 在庫管理に必要な詳細な情報が提供されず、別途での調査が求められることになります。

商的工業簿記の手法は、主に歴史上の背景を持つものであり、現在の業界標準から外れつつある傾向にあるものの、一部企業にとっては手軽に利用可能な方法として存在意義を持っています。他の簿記手法と合わせて、企業の財務管理における選択肢の一つと言えるでしょう。

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