喪失 (松本清張)

短編小説『喪失』の概要

松本清張による短編小説『喪失』は、1956年に『新潮』で初めて発表された後、1957年に短編集『詐者の舟板』に収められる形で出版されました。この作品は、シングルマザーとその周囲の人々との微妙な人間関係を描いています。1983年には、同作を基にしたテレビドラマも制作され、視聴者の関心を集めました。

あらすじ

物語の主人公は、シングルマザーの桑島あさ子。彼女は会社員の田代二郎と不倫関係にあり、彼の日常に尽くす生活を送っています。しかし、あさ子はある日、失業してしまいます。収入が不安定な二郎に昇給は期待できず、あさ子は自らの力で仕事を探さなければならなくなります。彼女には特別なスキルがないため、就職活動は難航し、最終的には前職の縁により銀行の集金人として働くことになります。

しかし、正社員としての雇用ではないため、収入は十分ではなく生活が困窮していきます。そんな折、ベテランの須田があさ子に手を差し伸べ、食事を分け与えてくれます。時間が経つにつれ、須田は自らの契約の一部をあさ子名義に回し、あさ子は彼のおかげで成績を向上させ、ついには正社員としての地位を得ることができました。

一方、二郎は須田の存在を知り、彼に対する嫉妬心を抱くようになりました。あさ子は、須田のおかげで正社員になれたことに感謝しつつも、彼を怒らせてはいけないと身を引き締めます。生活基盤を失うことを恐れるあさ子は、危険な状況にあることを自覚する一方で、二郎に「あなたがしっかり稼いでほしい」と訴えます。

その後のある夜、酔って帰った須田があさ子の部屋をノックします。この局面は、あさ子の心の葛藤をさらに深めるものとなります。彼女はいったい、どのような選択をするのか、そしてその行動が彼女自身や周りの人々にどのような影響を与えるのかが物語の焦点となります。

テレビドラマについて

「松本清張の喪失」は、1983年に放映されたテレビドラマで、読売テレビが制作しました。日本テレビ系列の木曜ゴールデンドラマ枠で放送され、視聴率は24.0％を記録しました。このドラマでは、主役の桑島あさ子を大原麗子が演じ、田代二郎役は風間杜夫、その友人である須田藤吉は三國連太郎が務めました。

登場人物

• - 桑島あさ子：主人公。シングルマザーとして日々の生活に苦しむ。
• - 田代二郎：あさ子の不倫相手。会社員。
• - 須田藤吉：あさ子の職場の先輩。彼女の支えとなる。

この作品を通じて、松本清張は人間の欲望や葛藤、また社会の厳しさを描き出しており、彼の独特な視点が印象的です。人間関係の微妙さや社会的な立場の変化が生み出す緊張感が、この作品をより一層引き立てています。彼の筆致を通じて、視聴者や読者はあさ子の心情に深く共感し、彼女の日常の喪失感や葛藤を感じていくことができます。

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