営繕

営繕：建築物の維持と創造を担う営み

「営繕」とは、建築物に関する新築工事、改築工事、修繕工事、そして模様替えといった、建物の維持管理や改修にまつわる全ての業務を包括的に指す言葉です。古代中国からその語源を持ち、日本でも古くから用いられてきた歴史ある言葉であり、現代社会においても、官公庁や企業組織において不可欠な役割を担っています。

歴史と変遷：古代から現代社会における営繕

「営繕」という語は、中国の春秋戦国時代まで遡ります。日本では、701年に制定された大宝律令にも登場し、当初は建物の建設・修繕だけでなく、道路や橋梁といった土木工事、さらには船舶の建造・修理をも含む、より広い意味で用いられていました。当時の営繕を司る職は、造営職や木工寮と呼ばれていました。

近代以降、特に戦前・戦後においては、公共建築物の設計は各省庁の営繕課が担うことが多く、多くの著名な建築家を輩出しました。しかし近年では、公共建築の設計の外部委託や設計の標準化が進み、その役割は民間へと移行しつつあります。

営繕の担い手：官公庁から民間企業まで

国土交通省営繕部は、官公庁施設の建設等に関する法律に基づき、官公庁施設の整備に関する業務を担っています。これを官庁営繕と呼びます。官公庁だけでなく、企業においても、営繕部門や担当部署が設置され、建物の維持管理や改修計画、工事の発注、監督といった業務を行っています。

また、営繕協同組合は、営繕工事を受注する中小の工務店などが組織した団体であり、資材の共同購入や設計事務所との共同研修、増改築工事の受注などを通して、会員相互の連携強化を図っています。

営繕に関連する用語と費用

営繕工事は、建物の新築、改築、修繕工事などの建築工事の総称であり、公共工事においては土木工事以外の工事を指します。営繕費は、建物新築や修繕にかかる費用を指し、営繕司は明治時代に官庁の建築工事を担当した役所、営繕役は建物の新築や修繕を担う役職またはその人を指します。

営繕の重要性：社会インフラの維持と発展

営繕は、単なる建物の維持管理にとどまりません。安全で快適な生活空間の確保、社会インフラの維持、そして歴史的建造物の保存といった、社会全体に貢献する重要な役割を担っています。適切な営繕を行うことは、経済効果や災害リスク軽減にも繋がるため、その重要性はますます高まっています。

今後の展望：持続可能な社会に向けた営繕

近年、環境問題への関心の高まりから、省エネルギー、省資源、そして環境負荷の低減を考慮した営繕が求められています。また、高齢化社会の進展に伴い、バリアフリー化や高齢者にとって使いやすい建物の整備も重要になってきています。

今後、営繕は、単なる維持管理を超えて、持続可能な社会の実現に貢献する役割を担っていくことが期待されます。その実現のためには、技術革新の導入、人材育成、そして関係者間の連携強化が不可欠です。

参考文献

営繕協会『営繕事業30年史』1981
近畿建設協会『営繕事業五十年史』2000
『富士屋ホテルの営繕さん 建築の守り人』LIXIL出版 2018
『素顔の大建築家たち 02 弟子の見た巨匠の世界』建築資料研究社 2001
『だれにもわかる建築営繕の実際』オーム社 1969
目黒甚七『大宝令新解 第3巻』1916
建築から社会に貢献する会『東京都営繕史』2010
『営繕論 希望の建設・地獄の営繕』NTT出版 2017

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