嘉長

嘉長（かちょう）：安土桃桃山時代～江戸初期の金工師、七宝師

嘉長（生没年不明）は、安土桃山時代から江戸時代初期にかけて活躍した金工師、七宝師であり、特に建築金具や装飾において優れた技術を発揮しました。

生涯

伊予松山（現在の愛媛県）に生まれたとされ、出自や本姓は明らかではありません。七宝の技法に長けていた嘉長は、豊臣秀吉にその才能を見出され京都に上洛し、堀川油小路に居を構えました。秀吉が建立する建築物の金具制作に携わったと伝えられていますが、その生涯に関する記録は多くありません。

一説によると、小堀遠州が秀吉の家臣であった頃に嘉長を知り、自らの勝色縅鎧（かついろおどしよろい）の金具の七宝を依頼したとされています。遠州に才能を認められた嘉長は、桂離宮の金物類を製作したと伝えられています。同時期に建立された大徳寺や曼殊院などの引手や釘隠も嘉長の作であるという伝承も残っています。

嘉長と同時期に京都で活躍した七宝師に平田道仁がおり、同一人物とする説もありますが、技法に違いが見られることや、史料による裏付けが乏しいことから、別人である可能性が高いと考えられています。

「藤堂家茶道記録」という史料には、「金物は嘉長、惣銀の金物活透し」という記述があり、この史料に関わった人物の生没年から、嘉長が16世紀中～後期に活躍した人物であると推定されています。

桂離宮の造営期間などを考慮すると、嘉長自身、またはその子孫や弟子が代々「嘉長」を名乗り、長きにわたって製作に携わった可能性も考えられます。

現在も残る大徳寺、曼殊院、修学院離宮、西本願寺、二条城などの建築装飾金具は、当時の御殿や寺社仏閣の造営に際し、嘉長のような金工師たちが京都内外から集められ、その技術を競い合ったことを物語っています。

横井時冬著『工芸鏡』では、嘉長は「鋳物工」、平田道仁は「七宝工」として別々に記載されており、それぞれの技法について解説されています。

代表作

嘉長の代表作として知られるのは、桂離宮に代表される京都の寺社や離宮の金物類です。小西本「桂御別業之記」には、新御殿の水仙形釘隠や月字形襖引手について「嘉長作　其頃彫物名人ト伝」と記されています。

横井時冬の調査によると、「桂御別業之記補註」や「大沢氏筆記」などの資料から、以下の金物が嘉長の作として特定されています。

桂離宮 新御殿 長押釘隠し（水仙形）
桂離宮 新御殿 一の間/二の間 襖引手（月字形）
桂離宮 楽器の間 杉戸引手（市女笠形）
桂離宮 月波楼 襖引手（手機の杼形）
桂離宮 松琴亭 戸袋引手（結紐形）
桂離宮 松琴亭 二の間 戸袋引手 「栄螺文七宝引手」（有線七宝）
桂離宮 笑意軒 中の間 襖引手（櫂形）

堀川油小路について

嘉長が居住していたとされる堀川油小路は、現在の地図には存在しないため、正確な場所を特定することは困難です。しかし、油小路通と堀川通が交わる付近、現在のJR京都線、山陰本線、嵯峨野線などが通る場所にあったと考えられています。

まとめ

嘉長は、安土桃山時代から江戸時代初期にかけて、京都を中心に活躍した金工師、七宝師であり、桂離宮などの建築装飾にその才能を発揮しました。その生涯には不明な点も多いですが、現在も残る作品は、当時の建築技術や装飾文化を伝える貴重な資料となっています。

参考文献

横井時冬「工芸鏡」六合館書店
鈴木規夫、榊原悟「日本の七宝」マリア書房

関連項目

京七宝
平田道仁

外部リンク

工芸鏡 - 近代デジタルライブラリー

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