四つの終止符

四つの終止符

西村京太郎の長編推理小説『四つの終止符』は、1964年に刊行された著者初の長編書き下ろし作品です。西村京太郎といえば、今日ではトラベルミステリーの第一人者として知られていますが、初期の本作は社会派推理小説に分類されるジャンルの作品です。

作品の背景

本作が発表された1年後、現実でも同時期に聾者の被告に関する意思疎通の不十分性が問題となる点で類似する事件（蛇の目寿司事件）が起こっており、著者の社会感覚の鋭敏さが示された作品でもあります。

著者の西村は、聾唖者教育の現状が貧困で一般の認識度も低いことや、聾者は発声機能が損なわれているわけではないため本人もろう学校の先生も懸命な努力をして発音しているにもかかわらず、世間の嘲笑の対象となってしまうことにたいしての怒りなどをこの作品に込め、「彼らを理解する手助けになれれば幸いである」と本作のあとがきで述べています。

ストーリー

聾者の青年、佐々木晋一は、病身の母、辰子と2人で貧しい暮らしを送っていました。小さな工場で働くものの、意思疎通がうまく図れず、孤立した日々を送っています。そんな晋一に、近所のバーの女給、石母田幸子だけは心を寄せていました。

ある日、晋一が母のために買った栄養剤「ビタホルン」を飲んだ辰子が毒死してしまいます。栄養剤には砒素が含まれていました。警察は晋一を「病身の母が邪魔になって毒殺した」のだと疑い、逮捕します。意思疎通の不自由から無実を訴える晋一を、警察はまともに取り合いません。しかし幸子は晋一の無罪を信じ、応援していました。

形勢不利な晋一に弁護士は、徒らに無実を主張するより裁判で刑法40条（聾唖者の刑罰減免を定めた規定、現在は削除）による無罪を勝ち取るよう提案し、晋一の救出を望む幸子はそれを伝えます。幸子は昔、同じ聾者だった弟を事故死させたことに責任を感じ、どうしても晋一を助けたいと思っていたのです。しかし、幸子にまで裏切られたと誤解し、絶望した晋一は遺書を残して自殺してしまいます。それを知りショックを受けた幸子も、後を追って命を絶ちます。

妹分の幸子の死に報いてやりたいと思った松浦時枝は、同じく真犯人を追う新聞記者の古賀博幸と協力します。

当初古賀は毒物の出所となった富子を疑っていたが彼女も自殺してしまいます。それでも諦めなかった時枝はついに真実を突き止め、一人の死から始まった事件の真犯人を見出したのです。

結局、辰子・晋一・幸子・富子という4人の死（4つの終止符）を引き起こして事件は幕を閉じることになります。

登場人物

松浦 時枝: 主人公。幸子と同じバーで働く女給。32歳。
石母田 幸子: バー「菊」の女給。20歳。晋一に心を寄せる。
古賀 博幸: 「東日新聞社会部」記者。時枝とともに事件の真相を探る。
佐々木 晋一: 聾者の青年。母と2人暮らし。母親殺しの容疑で逮捕される。
佐々木 辰子: 晋一の母。病身。毒殺される。

映画・テレビドラマ化

本作は、映画やテレビドラマなど、さまざまな形で映像化されています。

映画『この声なき叫び』（1965年）
火曜サスペンス劇場『影なき殺意』（1982年）
テレビ東京『女と愛とミステリー』(2001年)

作品が投げかけるもの

『四つの終止符』は、社会の無理解や偏見が、個人を追い詰めていく悲劇を描いた作品です。同時に、人間の心の弱さや、愛することの難しさも描かれています。読後、深く考えさせられる作品です。

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