四月テーゼ

四月テーゼ：ロシア革命を揺るがしたレーニンの提言

1917年4月、ロシア革命の渦中にあるペトログラードで、レーニンは10項目からなる「四月テーゼ」を発表しました。このテーゼは、それまでのボリシェヴィキの穏健路線を転換させるものであり、後のロシア革命の展開に大きな影響を与えました。本稿では、四月テーゼに至るまでの経緯、その内容、そして革命への影響について詳細に解説します。

二月革命後のロシア：二つの権力

二月革命によって帝政ロシアは崩壊し、臨時政府が成立しました。しかし、労働者や兵士の代表であるソヴィエトも同時に誕生し、ロシアには臨時政府とソヴィエトの「二重権力」構造が成立していました。社会革命党やメンシェヴィキが多数派を占めるソヴィエトは、当初臨時政府を支持する立場をとっていました。

一方、二月革命時に主要幹部が不在だったボリシェヴィキは、党内でも臨時政府への対応について意見が分かれていました。帰国したレーニンは、臨時政府を全く信頼せず、ソヴィエトへの全権力移行を主張する電報を送り続けました。しかし、帰国前のボリシェヴィキは、臨時政府への条件付き支持という穏健な路線をとっていたため、レーニンの主張は党内ではすぐに受け入れられませんでした。

四月テーゼ：10項目の提言

レーニンが4月3日に帰国し、翌日の集会で発表した四月テーゼは、以下の10項目から構成されていました。

1. 帝国主義戦争への反対と、民主的講和への移行
2. ブルジョアジー革命からプロレタリアート革命への移行
3. 臨時政府への一切の支持反対
4. 全国家権力をソヴィエトに移行させる運動
5. 議会制共和国ではなく、ソヴィエト共和国の実現
6. 土地国有化と農民への土地分配
7. 全銀行の労働者ソヴィエトによる統制
8. 生産と分配へのソヴィエトによる統制
9. 党大会の開催と綱領・党名（共産党）の変更
10. 新しいインターナショナルの創設

これらの項目は、これまでのボリシェヴィキの立場とは大きく異なる、より急進的な主張でした。特に、帝国主義戦争への反対とソヴィエトへの全権力移行という主張は、大きな衝撃を与えました。

四月テーゼと党内論争

四月テーゼは党内において大きな論争を引き起こしました。特に、ブルジョア民主主義革命の終焉と社会主義革命への移行というレーニンの主張は、カーメネフら穏健派から批判を受けました。レーニンは、ソヴィエトが既にパリ・コミューン型の国家として機能している点を強調し、反論しました。

四月テーゼと四月闘争

四月テーゼに基づき、ボリシェヴィキは党の方針を修正し、臨時政府への批判を強めました。臨時政府の外務大臣ミリュコフが連合国に送った覚書（ミリュコフ覚書）は、講和よりも戦争継続を強調するものでした。この覚書は、ソヴィエト側の兵士や労働者の反発を呼び起こし、「四月闘争」へと発展しました。

「全権力をソヴィエトへ」スローガンと十月革命

ボリシェヴィキは、四月テーゼに基づき、ソヴィエトへの全権力移行を訴えました。しかし、七月事件の失敗後、レーニンは一時的にこのスローガンを取り下げ、武装蜂起の準備を進めました。コルニーロフの反乱後、ソヴィエトでのボリシェヴィキの影響力が増大し、「全権力をソヴィエトへ」のスローガンが再び掲げられ、十月革命へと繋がっていきました。

四月テーゼの成果：布告と政策

十月革命後、ボリシェヴィキは「土地に関する布告」や「平和に関する布告」を発表し、土地国有化と民主的講和を進めました。また、「労働者統制」政策を進め、工場の経営への労働者の関与を進めました。銀行の国有化も実施され、経済政策は大きく変化しました。さらに、党名は「ロシア社会民主労働党（ボリシェヴィキ）」から「ロシア共産党（ボリシェヴィキ）」へと変更され、党綱領も修正されました。

第三インターナショナルの設立

四月テーゼで示された新しいインターナショナルの創設という目標は、第三インターナショナル（コミンテルン）の設立へと繋がっていきました。この国際組織は、世界革命の推進役として活動しました。

まとめ

四月テーゼは、ロシア革命の大きな転換点となりました。レーニンの急進的な主張は、党内論争を引き起こす一方で、ボリシェヴィキの革命戦略を大きく転換させ、十月革命への道を切り開きました。四月テーゼは、単なる10項目の提言にとどまらず、20世紀の世界史に大きな影響を与えた重要な出来事といえます。

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