四畳半王国見聞録

『四畳半王国見聞録』は、森見登美彦が描く、京都を舞台にした七つの短編小説からなる作品集です。新潮社から2011年に刊行され、2013年には新潮文庫版も登場しました。この作品集は、森見作品の特徴である「四畳半」という空間を軸に、独特な世界観が繰り広げられます。

概要

この小説集は、森見作品に頻出する四畳半を舞台とし、それぞれの物語が独立しながらも、どこか繋がりを持つように展開します。特に、他の作品からの登場人物が多く現れる点が特徴的で、森見作品のファンにとっては、この「四畳半並行世界」の真骨頂とも言えるでしょう。しかし、タイトルから『四畳半神話大系』の続編のように思われがちですが、作者自身は「四畳半がたくさん出てくる以外、ほとんど関連はない」と述べています。

収録作品

四畳半王国建国史
蝸牛の角
真夏のブリーフ
大日本凡人會
四畳半統括委員会
グッド・バイ
四畳半王国開国史

これらの短編は、それぞれ異なる視点や物語のスタイルを持ちながらも、四畳半という共通の舞台を通じて、森見独特のユーモアや幻想的な雰囲気を醸し出しています。

主な登場人物

余

『四畳半王国建国史』と『四畳半王国開国史』の語り手であり、四畳半王国の主です。法然院学生ハイツの「コ」の字型をした建物の一室に住み、シュレディンガー方程式に挫折したことをきっかけに、四畳半王国を建国します。彼は、四畳半の空間を拡張し、豊饒な世界を創り出そうと奮闘しています。

他の作品からの登場人物

浴衣の男（樋口）：『蝸牛の角』に登場。『四畳半神話大系』の登場人物と思われる。下鴨幽水荘に住む、薄汚れた浴衣を着た男。
ぬらりひょん（小津）：『蝸牛の角』と『四畳半統括委員会』に登場。『四畳半神話大系』の登場人物と思われる。小ばかにした笑みを浮かべる青年で、図書館警察・個人情報企画室長としても活動。
文学青年風の男：『蝸牛の角』に登場。『四畳半神話大系』の登場人物と思われる。親不知の痛みを訴えながら、小津と饅頭を分け合う。
乙女：『蝸牛の角』に登場。『四畳半神話大系』の登場人物と思われる。理知的な雰囲気を持つ黒髪の女性。
芽野士郎：『蝸牛の角』に登場。『【新釈】走れメロス 他四篇』の登場人物と思われる。詭弁論部所属で、丹波の助言を受け鞍馬山で修行するも遭難。
芹名：『真夏のブリーフ』と『四畳半統括委員会』に登場。『【新釈】走れメロス 他四篇』の登場人物と思われる。詭弁論部に所属し、ラテン語を好む。
淀川教授：『蝸牛の角』に登場。『有頂天家族』の登場人物と思われる。大学で栄養学を教えるが、狸好きで有名。爬虫類が苦手。

大日本凡人會

特殊な能力を持ちながらも、それらを世のために使わないという信条を持つ集団です。法然院学生ハイツで会合を開いています。この章は「ある学生による自主制作映画の原案」として語られており、他の章との関連性は不明です。

丹波：『蝸牛の角』、『大日本凡人會』、『グッド・バイ』に登場。マンドリン辻説法で人の心を見抜く特技を持つ。
数学氏：『大日本凡人會』に登場。妄想的な数学証明で物質を出現させる能力を持つ。
モザイク氏：『大日本凡人會』に登場。アダルトビデオのモザイクを操る能力を持つ。
凹氏：『大日本凡人會』に登場。精神的に落ち込むと近くの物を凹ませる能力を持つ。
無名君：『大日本凡人會』に登場。存在を認識されない能力を持つ。

その他

図書館警察忘年会幹事：『蝸牛の角』に登場。忘年会の幹事を押し付けられ困惑する。
三浦：『真夏のブリーフ』と『四畳半統括委員会』に登場。人間関係研究会所属で、スクラップブックを趣味とする。
鈴木：『真夏のブリーフ』と『四畳半統括委員会』に登場。詭弁論部所属で、三浦に好意を抱く。
楓：『真夏のブリーフ』に登場。人間関係研究会所属で、ホラー映画に詳しい。
柊：『真夏のブリーフ』に登場。詭弁論部所属で、楓と交際している。
桃谷：『真夏のブリーフ』に登場。淀川研究室の最古参。
初音：『大日本凡人會』に登場。映画サークルに所属しているが、彼女の映画を見た観客は眠ってしまう。

用語解説

法然院学生ハイツ：京都府東山にある巨大な「コ」の字型をした建物。荒涼とした雰囲気が特徴。
阿呆神：四畳半を支配する神。黄色地に紫の水玉模様のブリーフ姿で踊り続ける。
四畳半統括委員会：「世界を四畳半化すること」を目的とした組織。実態は不明。
下鴨幽水荘：下鴨神社東にある古アパート。『四畳半神話大系』にも登場。

これらの要素が複雑に絡み合い、読者を森見ワールドへと引き込みます。各短編は独立しているため、どこから読んでも楽しむことができるでしょう。

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