四谷丸太

四谷丸太（よつやまるた）/ 高井戸丸太（たかいどまるた）

四谷丸太、または高井戸丸太とは、江戸時代から大正時代にかけて、現在の東京都杉並区を中心とした地域で生産されていた杉のブランド名です。主に四谷大木戸以西の農地で栽培された杉が、この名で広く知られていました。

歴史

その起源は、明暦3年（1657年）の明暦の大火に遡ります。火災後、四谷にあった全勝寺の境内の杉林から、若木の皮を剥いだものが船用の丸太として利用されました。これが「四谷丸太」の始まりとされ、この地域が「舟町」と呼ばれるきっかけにもなりました。

その後、需要の増加を見越し、四谷大木戸より西、現在の高井戸周辺の平坦な土地で杉の植林が始まりました。これらの地域で生産された杉は、甲州街道を経由して江戸や東京の市中へ流通しました。

特徴

四谷丸太の特徴は、その真っ直ぐな形状と円柱状の美しい姿にありました。特に住宅の「化粧げた」として珍重され、その弾力性と節の少なさから、河川を航行する船の竿としても重宝されました。また、間伐材や主伐材は、建築現場の足場丸太としても利用されました。

江戸後期の文政年間に描かれた『武蔵江戸図会』には、「椙（すぎ）の丸太なり。細く長きこと竹の如し。上品にて吉野丸太と同じ」と記されており、吉野杉に匹敵するほどの高品質であったことが伺えます。特に良質な材は、四谷の銘木問屋で加工され、床柱などに使用される「磨き丸太」として高値で取引されていました。

衰退

明治時代の中頃から、この地域で生産されていた杉は赤枯れ病に見舞われるようになり、生産量が減少しました。一時的に青梅産の杉が「四谷丸太」のブランド名を名乗って出荷されたこともありましたが、関東大震災や周辺地域の都市化の影響を受け、完全に衰退しました。

現在

現在、その名残は、杉並区立の高井戸丸太緑地（杉並区高井戸西2-17-2）にわずかに残されています。この緑地は、かつて四谷丸太が生産されていた歴史を今に伝える貴重な場所となっています。

まとめ

四谷丸太は、江戸時代から大正時代にかけて、東京の都市木材需要を支えた重要な存在でした。その品質の高さと用途の広さから、人々の生活に深く関わっていましたが、時代の変化とともにその役割を終えました。しかし、その名は今も地域に残り、歴史の一端を伝えています。

[外部リンク]

* 全国森林インストラクター会 - ウェイバックマシン（2005年2月15日アーカイブ分）

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