回帰線 (尾崎豊のアルバム)

尾崎豊『回帰線』：10代の叫びと音楽性の進化

『回帰線』は、尾崎豊が1985年3月21日にリリースした2枚目のオリジナルアルバム。前作『十七歳の地図』から約1年3ヶ月ぶりの作品で、英題は『TROPIC OF GRADUATION』。作詞・作曲は尾崎豊自身が手掛け、プロデュースは須藤晃が担当。

背景：挫折と葛藤からの出発

前作リリース後、高校からの留年宣告や教師との対立を経て、尾崎は自主退学を決意。卒業式の日にはデビューライブを敢行し、音楽活動を本格化させる。しかし、その道は平坦ではなく、ライブ中の事故による怪我、初のホールコンサート延期など、数々の困難に直面する。

録音：ライブ感と攻撃性の追求

レコーディングは、コンサートツアーの合間を縫って行われた。尾崎の「ステージのノリのままでやりたい」という要望から、ライブレコーディングに近い形式で制作。歌詞も、目の前の観客がすぐに反応できるように、攻撃的な言葉が選ばれた。アルバム収録曲の多くは、リリース前にすでにライブで演奏されていた。

音楽性とテーマ：多面的な視点と社会への眼差し

アルバムタイトルは、ヘンリー・ミラーの小説『北回帰線』からインスピレーションを得て、プロデューサーの須藤晃によって名付けられた。前作よりも多角的な視点を取り入れ、社会や音楽業界への批判、若者の焦燥感や葛藤を表現。収録曲では、「奪い合い」や「生存競争」といった言葉が多用され、街の情景の描写にも変化が見られる。

楽曲解説

Scrambling Rock'n'Roll: 渋谷のスクランブル交差点をイメージした、ライブ感溢れるナンバー。尾崎がスタジオを走り回りながら歌ったという逸話も残る。
Bow!: 音楽業界への批判とも取れる歌詞が印象的な楽曲。須藤晃に「俺のことを歌ってるんじゃないか？」と何度も尋ねられたというエピソードも。
Scrap Alley: アマチュア時代のバンド仲間、武井寛史に贈った曲。家出の体験を基に、スクラップ置場での情景を描いている。
ダンスホール: デビュー以前から存在した楽曲で、生前最後のライブでも最後に歌われた。学校を退学した同級生のことを歌った曲だと言われている。
卒業: シングルとしてもリリースされ、尾崎豊の代表曲の一つとなった。仕組まれた自由への疑問を投げかける歌詞が、当時の若者の心を捉えた。
存在: メロディーが先行して作られた楽曲。哲学的な歌詞と、シンディ・ローパーのようなアレンジが融合した異色のナンバー。
坂の下に見えたあの街に: 一人暮らしを始めた頃の心情を綴った楽曲。19歳の少年の素直な感情が表現されている。
群衆の中の猫: ビリー・ジョエルのバラードのような楽曲を目指して制作された。孤独感が色濃く表現されている。
Teenage Blue: トム・ウェイツやブルース・スプリングスティーンをイメージして作られた、ブルージーなナンバー。
シェリー: 神田川を見ながら考案された楽曲。カリスマ化されることへの苦悩や決意が込められている。

リリースと評価

『回帰線』は、オリコンアルバムチャートで初登場1位を獲得。第27回日本レコード大賞では優秀アルバム賞を受賞するなど、高い評価を得た。その歌詞やメッセージは、若者の共感を呼び、尾崎豊は「10代の代弁者」として、その地位を確立した。

『回帰線』は、尾崎豊の音楽性の進化と、社会に対する鋭い眼差しが融合した傑作。10代の若者の心情を代弁するだけでなく、普遍的なテーマを追求した作品として、今もなお多くの人々に愛され続けている。

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