困ったなア

佐藤愛子が筆を執った『困ったなア』（こまったなあ）は、若者たちの等身大の姿を捉えたジュブナイル小説であり、後にこれを原作としてNHKの少年ドラマシリーズでテレビドラマとしても制作され、幅広い層に知られることとなった作品です。思春期特有の心の揺れ動きや日常の出来事が瑞々しく描かれ、当時の若い読者や視聴者の共感を呼びました。

この小説は、1976年に集英社から発行された集英社文庫コバルトシリーズの一冊として世に出ました。コバルトシリーズは、主に若い女性読者を対象とした文庫レーベルとして、当時多くの人気作品をラインナップしていました。『困ったなア』には、表題作である「困ったなア」を含め、計3篇の短編が収録されています。物語の中心となる表題作では、「困ったなア」という口癖が特徴的な一人の女子中学生、桃子の日常が生き生きと描かれます。学校での出来事、友人との関わり、そして淡い初恋といった、誰もが経験するような青春期の悩みや喜びが丁寧に綴られています。また、この単行本には、表題作の他に「がむしゃらデート」と「さびしい大将」という、それぞれ異なる登場人物を主人公とした短編が併せて収められており、一冊で複数の物語を楽しむことができます。書籍の装丁には、当時人気の高かったイラストレーター、原田治氏による魅力的な挿絵が用いられており、作品の雰囲気を一層引き立てています。第1刷は1976年6月28日に発行され、ISBNコードは4-08-610009-6が付与されています。

小説の刊行から間もなく、1977年にはNHKの少年ドラマシリーズという枠でテレビドラマ化が実現しました。このドラマは、1977年3月7日から3月24日にかけて放送され、全12回という構成でした。当時のNHK少年ドラマシリーズは、ジュブナイル文学やSF、冒険物語などを原作とする質の高い番組が多く、若い世代に大きな影響を与えました。『困ったなア』のドラマ版は、毎週月曜日から木曜日までの帯番組として放送されました。脚本は土井行夫氏が手掛け、主人公の桃子役は平松里枝子氏が演じました。ドラマ版における特筆すべきエピソードとして、原作小説にも登場する、主人公・桃子がファンである歌手、野口五郎氏にサインを求める場面がありますが、このシーンにはなんと野口五郎氏本人がゲスト出演を果たしました。これは当時の視聴者やファンにとって、非常に印象的な出来事として語り継がれています。

小説そしてテレビドラマとして展開された『困ったなア』は、飾らない等身大の主人公を通して、多くの読者や視聴者が自身の青春と重ね合わせられるような物語を提供しました。特に主人公の口癖や、日常のささやかな出来事を捉えた描写は、読者の心に寄り添うような温かさを持っています。テレビドラマ化は、原作の世界観を視覚的に再現しつつ、著名な歌手本人の出演といったメディアミックスならではの仕掛けも取り入れ、作品の魅力をさらに多くの人に届けることとなりました。この作品は、1970年代の日本のジュブナイル文化を知る上で、記憶すべき一作と言えるでしょう。

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