図鑑 (アルバム)

くるりのセカンドアルバム『図鑑』：バンドの葛藤と音楽的成長の軌跡

2000年1月21日、くるりのセカンドアルバム『図鑑』がSPEEDSTAR RECORDSよりリリースされました。本作は、ジム・オルークという強力なプロデューサーを迎えたことで、くるりの音楽性が大きく進化した作品として知られています。

疾走感あふれるギターロックナンバー「マーチ」や「青い空」といった楽曲は、彼らの攻撃的な側面を鮮やかに描き出しています。一方で、「ピアノガール」や「屏風浦」といったしっとりとした曲も収録されており、アルバム全体を通して、くるりの音楽的多様性が感じられます。キャッチコピーは「ほんとにすごいぞ、くるり」という、彼らの自信が感じられる言葉でした。「青い空」と「街」は先行シングルとしてリリースされ、既に注目を集めていた彼らの存在感をさらに高めました。また、一部楽曲にはモノラル録音バージョンも収録されているという、こだわりも垣間見られます。

サポートメンバーとして、あらきゆうこ、根岸孝旨など、実力派ミュージシャンが参加している点も見逃せません。彼らの演奏が、アルバムの完成度をさらに高めていると言えるでしょう。

しかし、このアルバムの制作過程は、決して順風満帆ではありませんでした。ボーカルの岸田繁は、当時のバンド状況を「バンドもすごい仲の悪かった時期で…」と振り返っています。その原因は、楽曲制作におけるメンバー間の意見の食い違い、特に岸田と他のメンバーとの間での摩擦だったようです。岸田自身の高い理想と、メンバー間の温度差が、制作過程を困難なものにしたと語られています。岸田自身、この時の自身の精神状態を「ギスギスしていた」「ちょっとおかしくなってた」と表現しており、その状況の険しさが伺えます。

アルバムの収録曲は多様性に富み、それぞれの楽曲に個性的な魅力があります。例えば、イントロはシングル曲「虹」のサンプリングを使用しているなど、遊び心も感じられます。「マーチ」は、ネオソフトのCMソングのレコーディングスタジオでそのままレコーディングされたというエピソードも残っています。「青い空＜アルバムMIX＞」はシングルバージョンとは異なり、エフェクトを抑え、よりライブ感のある仕上がりになっています。インストゥルメンタル曲「惑星づくり」や「ABULA」は、くるりの音楽的才能を余すことなく表現しています。また、「チアノーゼ」はインディーズ時代からの楽曲で、初期からのファンにとって懐かしい一曲でしょう。「ピアノガール」は岸田のピアノ弾き語りによる、静謐なムード漂う楽曲です。「街」は4thシングルとして既に人気を博していました。「ロシアのルーレット」「ホームラン」「宿はなし」など、各楽曲はそれぞれ異なる雰囲気を持ち、アルバム全体に変化を与えています。「ガロン＜ガロ～ンMIX＞」はSUPERCARの中村弘二によるリミックスで、新たな魅力が加わっています。

演奏者陣も豪華です。岸田繁はヴォーカルだけでなく、ギター、ドラム、ピアノ、キーボードなど幅広い楽器を演奏しています。佐藤征史、森信行もベースとドラムで楽曲を支え、さらにマリンバやチェロといった楽器も演奏しています。サポートメンバーもそれぞれの持ち味を発揮し、アルバムに深みを与えています。

『図鑑』は、バンド内部の葛藤を乗り越え、音楽的に大きく成長したくるりの姿を示す、重要な作品です。激しい楽曲と穏やかな楽曲の共存、そして多彩な楽器編成と演奏スキルは、リスナーに多様な音楽体験を提供します。このアルバムは、くるりの音楽史において、大きな転換点となったと言えるでしょう。歌詞の中に東向日駅や屏風浦駅といった具体的な地名が登場するのも、このアルバムの特徴の一つです。これらの地名が持つ風景や情景が、楽曲の世界観をより豊かにしています。

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