国地方係争処理委員会

国地方係争処理委員会とは

国地方係争処理委員会は、地方公共団体に対する国の関与に関する紛争を解決するために、総務省に設置された合議制の第三者機関（審議会）です。地方自治法第250条の7の規定に基づいて設置されています。

概要

地方公共団体は、国の是正要求、許可の拒否、その他の公権力の行使にあたる関与に不服がある場合、国地方係争処理委員会に審査を申し立てることができます。委員会は、申立てに基づいて審査を行い、国の関与が違法または不当であると認めた場合、国の行政庁に対して必要な措置を講じるよう勧告を行います。

2000年に委員会が設置されてから最初の審査事例は、横浜市が導入した勝馬投票券発売税に対する総務大臣の不同意処分でした。また、審査の対象とならないとして却下された事例もあります。

組織

委員会は、両議院の同意を得て総務大臣が任命する5人の委員で構成されます。委員の任期は3年で、原則として非常勤ですが、2人まで常勤とすることが可能です。委員長は、委員の中から互選で選出されます。会議は委員長が招集し、委員長と2人以上の委員の出席がなければ開催できません。議決は、出席者の過半数によって決定され、可否同数の場合は委員長が決定権を持ちます。

係争処理の流れ

審査対象

審査の対象となるのは、以下の通りです。

是正の要求、許可の拒否など、国の公権力の行使としての関与（ただし、代執行手続における指示や代執行行為は対象外）。
国の不作為。
国との協議が不調に終わった場合。

審査の申出

地方公共団体の長その他の執行機関は、国の関与に不服がある場合、当該関与があった日から30日以内に、委員会に対して、文書で審査を申し立てることができます。この際、相手方は当該関与を行った国の行政庁となります。

審査の方法

委員会は、審査の申出があった日から90日以内に審査を実施する必要があります。審査においては、必要に応じて関係行政機関を参加させたり、参考人に意見を述べさせたり、証拠の鑑定や書類の提出を要求することが認められています。

審査後の手順

国の関与が、自治事務に関して違法または不当、法定受託事務に関して違法であると判断された場合、委員会は、国の行政庁に対して必要な措置を講じるよう勧告します。勧告には、理由と期間が示されます。また、委員会は勧告の内容を地方公共団体の長その他の執行機関に通知するとともに、公表します。

一方、国の関与に違法性や不当性がないと判断された場合、委員会は、その旨を理由を付して地方公共団体と国の行政庁に通知し、公表します。

審査の過程で、調停による解決が適切であると判断した場合には、委員会は職権により調停案を作成し、当事者に提示して受諾を勧告することができます。

訴訟の提起

地方公共団体は、以下の場合には、措置の通知や審査結果の通知があった日から30日以内に、高等裁判所に対して訴訟を提起することができます。ただし、審査の申出を経ずに直接訴訟を提起することはできません（審査申出前置主義）。

国が委員会の勧告に従って行った措置に不満がある場合
委員会の審査結果に不満がある場合

係争経緯の事例

勝馬投票券発売税導入計画（横浜市）

2000年代に横浜市が計画した勝馬投票券発売税の導入を巡り、総務大臣が不同意としたことが、委員会で最初に審査された事例となりました。

北陸新幹線整備計画（新潟県）

2009年、新潟県は北陸新幹線の工事実施計画の認可に関して、国地方係争処理委員会に審査を申し立てましたが、審査対象に該当しないとして却下されました。

普天間基地移設問題（沖縄県）

沖縄県は、普天間基地の移設を巡り、国土交通大臣による執行停止決定や是正指示に対して、複数回にわたり国地方係争処理委員会に審査を申し立てました。

2015年には、国土交通省が沖縄防衛局の審査請求に基づく執行停止申立てを認めたことに対し、審査申立てを行いましたが、審査対象外として却下されました。
2016年には、国土交通大臣による是正指示が地方自治法に違反するとして審査を申し立てましたが、国土交通省が是正指示を撤回したため、申立てを取り下げました。その後、再度是正指示が行われたため、改めて審査を申し立てましたが、委員会は是正指示の違法性判断をせず、国と県での協議を促しました。
2022年には、国土交通大臣の裁決と是正指示に対して審査を申し立てましたが、委員会は審査対象外または違法ではないと判断しました。これらの判断を不服として沖縄県は訴訟を起こしましたが、敗訴が確定しています。

サンゴ移植問題（沖縄県）

2023年には、沖縄県が基地建設を巡るサンゴ移植を許可しなかったことに対し、農林水産大臣が許可を指示したことについて、沖縄県は国地方係争処理委員会に指示の取り消しを求めましたが、申し立ては退けられました。その後、沖縄県は訴訟を提起しています。

ふるさと納税（泉佐野市）

ふるさと納税制度において、総務省が泉佐野市を制度から除外したことに対し、泉佐野市は国地方係争処理委員会に審査を申し立て、一部認められました。しかし、総務省が除外を継続したため、訴訟に発展し、最終的には泉佐野市が勝訴しました。また、寄付金収入を理由とした特別交付税の減額についても訴訟となりましたが、こちらは泉佐野市が敗訴しています。

脚注

出典：総務省国地方係争処理委員会

関連項目

地方自治法
地方分権一括法

外部リンク

国地方係争処理委員会
国地方係争処理委員会 - コトバンク

もう一度検索