国家弁務官統治区域

国家弁務官統治区域：ナチス・ドイツの占領地支配と大ゲルマン帝国構想

第二次世界大戦中、ナチス・ドイツは占領地の統治に「国家弁務官統治区域（Reichskommissariat）」という制度を採用しました。これは、国家弁務官（Reichskommissar）と呼ばれる政府高官が、広大な領土を支配する体制です。日本語では「国家弁務官区」や「帝国弁務官領」などとも訳されます。

この制度は、ナチス・ドイツの領土拡大政策と密接に関連しています。西欧・北欧においては、既存の行政機構をある程度維持しつつ、ドイツの支配を強固なものとすることを目的としていました。一方、東欧、特に旧ソ連領では、徹底的な支配と資源の搾取、さらにはドイツ人入植のための「生存圏」確保を企図していました。

西欧・北欧における統治

西欧・北欧では、ノルウェー、オランダ、ベルギー北部などが国家弁務官統治区域に指定されました。ノルウェーでは、親ドイツ派のクヴィスリング政権が表面上は存在しましたが、実権はドイツの国家弁務官が握っていました。ベルギー北部は、後にフランデレンとワロニアの帝国大管区に分割される予定でしたが、連合軍の進攻により計画は頓挫しました。これらの地域では、ドイツによる経済的搾取や弾圧が行われ、抵抗運動も活発化しました。

旧ソ連支配地域における統治：大ゲルマン帝国構想

旧ソ連領における国家弁務官統治区域は、ナチス・ドイツの野望を象徴するものでした。イデオロギー学者アルフレート・ローゼンベルクは、ソ連領土をいくつかの国家弁務官統治区域に分割する計画を提案しました。

具体的には、オストラント（バルト三国周辺）、ウクライーネ（ウクライナ）、ドン・ヴォルガ（ドン川・ヴォルガ川流域）、モスコーヴィエン（モスクワ周辺）、カウカーズース（コーカサス地方）、トルキスタン（中央アジア）などが挙げられます。しかし、これらの計画は、ソ連軍の激しい抵抗とドイツ軍の戦線後退により、ほとんどが実現しませんでした。東部占領地域では、ユダヤ人やスラヴ人に対する大量虐殺（ホロコースト）が組織的に行われ、多くの犠牲者が出ました。これは、ナチス・ドイツの人種差別政策と、東欧をドイツ人の「生存圏」とする計画に基づいていました。

国家弁務官統治区域の目的と失敗

国家弁務官統治区域の設置は、ナチス・ドイツによる領土支配の強化と資源の獲得、そして究極的には大ゲルマン帝国の建設という大きな目標に沿ったものでした。しかし、ソ連の抵抗や連合軍の反攻により、これらの計画は大きく頓挫しました。国家弁務官統治区域は、ナチス・ドイツの侵略戦争と残虐行為の象徴として、歴史に刻まれています。

参考文献

ヘルベルト・ウルリヒ 著、小野寺拓也 訳『第三帝国——ある独裁の歴史』KADOKAWA〈角川新書〉、2021年。

関連項目

東部占領地域
ホロコースト
ナチス・ドイツ
* 第二次世界大戦

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