国立公衆衛生院

日本の公衆衛生水準向上に貢献した国立公衆衛生院は、1938年から2002年まで活動した研究・教育機関です。厚生省の管轄下で、公衆衛生分野の専門技術者育成や調査研究を担い、現在の国立保健医療科学院の前身の一つとしてその名を残しています。

その設立は、1923年の関東大震災後の復興支援に端を発します。米国ロックフェラー財団が日本の公衆衛生専門家育成機関設立を提案し、多額の経済的支援が提供されました。この支援を基に計画が進められ、1938年3月に東京都港区白金台に設立されました。設立当初は、疫学、小児衛生、環境生理など、幅広い分野の専門家が指導にあたりました。

国立公衆衛生院の主要な役割は、国や地方自治体などで公衆衛生業務に携わる技術者に対し、高度な知識と技能を修得させる教育訓練を行うことでした。これに加え、公衆衛生に関する重要な調査研究も推進しました。設立後、組織はいくつかの変遷を経て、1949年に国立公衆衛生院と改称されました。国際的にもその教育水準は認められ、1965年には世界保健機関（WHO）がその提供するDiploma in Public Healthを他国の公衆衛生学修士（MPH）と同等と評価しています。多様な教育訓練課程が設けられ、公衆衛生分野を牽引する人材を育成しました。

約60年余りの活動を経て、国立公衆衛生院は2002年4月1日、組織改編により国立感染症研究所の一部などと統合され、国立保健医療科学院となりました。これに伴い、その機能は埼玉県和光市へ移転しました。しかし、白金台の旧庁舎は、建築家・内田祥三氏による重厚な「内田ゴシック」様式を用いた特徴的な近代建築として、その歴史的価値が評価されました。保存運動を経て、2009年に港区の所有となり、耐震補強などの改修を経て2018年に公共複合施設「ゆかしの杜」として再生されました。現在、建物内には港区立郷土歴史館などが入居し、往時の公衆衛生院の姿の一部を見学することができます。2019年には港区指定有形文化財にも指定され、建築遺産としても高く評価されています。

国立公衆衛生院は、日本の公衆衛生体制の確立と発展に不可欠な役割を果たしました。その教育・研究活動は現在の機関に引き継がれ、旧庁舎は近代日本の歴史を伝える貴重な文化遺産として活用され続けています。

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