国立海事博物館
イギリスの首都ロンドン、テムズ川沿いの歴史的な港町グリニッジに位置する国立海事博物館（National Maritime Museum: NMM）は、世界有数の海事専門博物館です。ここは、ユネスコ世界遺産「マリタイム・グリニッジ」の一部を構成する重要な施設であり、英国が誇る豊かな海事の歴史と文化を伝える中心的な役割を担っています。他の多くの国立博物館と同様、特別展を除けば入館料は不要で、誰もが気軽に英国の海事遺産に触れることができます。
博物館の設立は、海事関連の貴重なコレクションを包括的に収集・保存し、一般公開することを目指し、1934年に制定された「国立海事博物館法」に基づいて決定されました。そして、1937年4月27日、国王ジョージ6世臨席のもと、盛大に開館式が執り行われました。この歴史的な瞬間には、当時まだ幼かった王女エリザベス殿下（後のエリザベス2世女王）も同席されました。開館当初の館長には、ジオフリー・カレンダー氏が就任しています。
博物館が置かれているグリニッジという土地自体が、海事において非常に長い歴史を刻んできました。古くはローマ帝国の軍隊が上陸した記録があり、またイングランド王室の居所が置かれたこともあります。特に、イングランド海軍の発祥地の一つとされ、1675年には国王チャールズ2世によってグリニッジ天文台が設立されました。この天文台は、航海において不可欠な天体観測の拠点となり、1884年には国際的にグリニッジ標準時とグリニッジ子午線の基準点となったことで、世界中の航海士が時刻合わせの拠点として利用する、文字通りの「世界の時間と空間の中心」となりました。
国立海事博物館は、英国の海事史に関連する世界各地から集められた200万点を超える膨大なコレクションを誇ります。これには、英国や17世紀オランダの優れた海事美術品、正確な航海に欠かせない海図、歴史的な公文書、精密な船の模型やその設計図、さらには科学、航海、天文学に関連する貴重な物品などが含まれています。特に有名な収蔵品としては、トラファルガーの海戦で英国を勝利に導いたホレーショ・ネルソン提督や、太平洋を探検したジェームズ・クック船長の肖像画などが挙げられます。
博物館は、収蔵品を積極的に国内外の他の機関に貸し出すことで、より多くの人々が英国の海事遺産に触れる機会を提供しています。その活動の根底にある目的は、英国の経済、文化、社会、政治、そして海事の歴史と、それが現代世界に与えている影響について、より深い理解を促進することにあります。この目的を達成するため、常設展示に加え、多岐にわたるテーマで様々な特別展示会を精力的に開催しています。
一部の収蔵品、特に第二次世界大戦後にドイツのミュルヴィク海軍兵学校から移管された船の模型、絵画、旗などについては、「略奪美術品（looted art）」であるとの批判が存在します。これに対し博物館側は、これらの品々はポツダム会議の取り決めに従って連合国によって接収された「戦利品」であり、合法的に取得されたものであるとの見解を示しています。
博物館は、主要な設立寄贈者であるジェームズ・ケアード氏の功績を記念し、1984年に「ケアード・メダル」を創設しました。このメダルは毎年、海事分野において重要な貢献、特に公衆とのコミュニケーションを含む活動で顕著な成果を上げた個人に授与されています。また、近年には注目すべき出来事もありました。2018年には、破産した企業が所有していたタイタニック号に関する約5500点もの遺物の購入権利を巡り、世界の複数の団体が争奪戦を繰り広げました。国立海事博物館も、タイタニック・ベルファストなど複数の機関と共同でコンソーシアムを結成し、これらの遺物をまとめて英国（タイタニック号建造地のベルファストやグリニッジ）に恒久的に展示することを目指して入札に参加を試みました。しかし、2018年10月に行われたオークションでは、最低落札価格がコンソーシアムの用意できた資金を上回り、残念ながら落札は実現しませんでした。
グリニッジの本館に加え、2018年には東ロンドンのキッドブルックに別館「フィリップ王配海事コレクションセンター」が開館しました。この施設は、本館では展示しきれない約7万点もの収蔵品を保管しており、予約制でガイドツアーも実施され、普段見ることのできない貴重な資料に触れる機会を提供しています。また、グリニッジから離れたイングランド南西部コーンウォール州のファルマスには、「国立海事博物館コーンウォール」があります。これは、旧コーンウォール海事博物館と国立海事博物館が1992年に提携して設立されたもので、地域の海事史と連携しながら活動しています。
博物館の運営には、多くの優れた館長が携わってきました。初代ジオフリー・カレンダー氏から始まり、フランク・ジョージ・グリフィス・カー氏、バジル・ジャック・グリーンヒル氏、ニール・コッソン氏、リチャード・ルイス・オーモンド氏、ロイ・クレア氏、ケビン・フュースター氏、そして現在のパディ・ロジャース氏に至るまで、それぞれの時代に博物館の発展に貢献しています。
設立の背景
博物館の設立は、海事関連の貴重なコレクションを包括的に収集・保存し、一般公開することを目指し、1934年に制定された「国立海事博物館法」に基づいて決定されました。そして、1937年4月27日、国王ジョージ6世臨席のもと、盛大に開館式が執り行われました。この歴史的な瞬間には、当時まだ幼かった王女エリザベス殿下（後のエリザベス2世女王）も同席されました。開館当初の館長には、ジオフリー・カレンダー氏が就任しています。
グリニッジの歴史的重要性
博物館が置かれているグリニッジという土地自体が、海事において非常に長い歴史を刻んできました。古くはローマ帝国の軍隊が上陸した記録があり、またイングランド王室の居所が置かれたこともあります。特に、イングランド海軍の発祥地の一つとされ、1675年には国王チャールズ2世によってグリニッジ天文台が設立されました。この天文台は、航海において不可欠な天体観測の拠点となり、1884年には国際的にグリニッジ標準時とグリニッジ子午線の基準点となったことで、世界中の航海士が時刻合わせの拠点として利用する、文字通りの「世界の時間と空間の中心」となりました。
膨大なコレクション
国立海事博物館は、英国の海事史に関連する世界各地から集められた200万点を超える膨大なコレクションを誇ります。これには、英国や17世紀オランダの優れた海事美術品、正確な航海に欠かせない海図、歴史的な公文書、精密な船の模型やその設計図、さらには科学、航海、天文学に関連する貴重な物品などが含まれています。特に有名な収蔵品としては、トラファルガーの海戦で英国を勝利に導いたホレーショ・ネルソン提督や、太平洋を探検したジェームズ・クック船長の肖像画などが挙げられます。
活動と目的
博物館は、収蔵品を積極的に国内外の他の機関に貸し出すことで、より多くの人々が英国の海事遺産に触れる機会を提供しています。その活動の根底にある目的は、英国の経済、文化、社会、政治、そして海事の歴史と、それが現代世界に与えている影響について、より深い理解を促進することにあります。この目的を達成するため、常設展示に加え、多岐にわたるテーマで様々な特別展示会を精力的に開催しています。
コレクションに関する議論
一部の収蔵品、特に第二次世界大戦後にドイツのミュルヴィク海軍兵学校から移管された船の模型、絵画、旗などについては、「略奪美術品（looted art）」であるとの批判が存在します。これに対し博物館側は、これらの品々はポツダム会議の取り決めに従って連合国によって接収された「戦利品」であり、合法的に取得されたものであるとの見解を示しています。
ケアード・メダルとタイタニック号遺物
博物館は、主要な設立寄贈者であるジェームズ・ケアード氏の功績を記念し、1984年に「ケアード・メダル」を創設しました。このメダルは毎年、海事分野において重要な貢献、特に公衆とのコミュニケーションを含む活動で顕著な成果を上げた個人に授与されています。また、近年には注目すべき出来事もありました。2018年には、破産した企業が所有していたタイタニック号に関する約5500点もの遺物の購入権利を巡り、世界の複数の団体が争奪戦を繰り広げました。国立海事博物館も、タイタニック・ベルファストなど複数の機関と共同でコンソーシアムを結成し、これらの遺物をまとめて英国（タイタニック号建造地のベルファストやグリニッジ）に恒久的に展示することを目指して入札に参加を試みました。しかし、2018年10月に行われたオークションでは、最低落札価格がコンソーシアムの用意できた資金を上回り、残念ながら落札は実現しませんでした。
別館と関連施設
グリニッジの本館に加え、2018年には東ロンドンのキッドブルックに別館「フィリップ王配海事コレクションセンター」が開館しました。この施設は、本館では展示しきれない約7万点もの収蔵品を保管しており、予約制でガイドツアーも実施され、普段見ることのできない貴重な資料に触れる機会を提供しています。また、グリニッジから離れたイングランド南西部コーンウォール州のファルマスには、「国立海事博物館コーンウォール」があります。これは、旧コーンウォール海事博物館と国立海事博物館が1992年に提携して設立されたもので、地域の海事史と連携しながら活動しています。
歴代館長
博物館の運営には、多くの優れた館長が携わってきました。初代ジオフリー・カレンダー氏から始まり、フランク・ジョージ・グリフィス・カー氏、バジル・ジャック・グリーンヒル氏、ニール・コッソン氏、リチャード・ルイス・オーモンド氏、ロイ・クレア氏、ケビン・フュースター氏、そして現在のパディ・ロジャース氏に至るまで、それぞれの時代に博物館の発展に貢献しています。
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