国進民退

中国経済における「国進民退」：国有経済の台頭と民営経済の停滞

2000年代以降の中華人民共和国において、国有経済の強化と民営経済の縮小という顕著な経済現象が観察されています。この現象は一般的に「国進民退（こくしんみんたい）」と呼ばれ、1990年代の「国退民進（こくたいみんしん）」とは対照的な動きを示しています。本稿では、「国進民退」の背景、実態、そしてその意味について詳細に考察します。

1990年代の「国退民進」：改革開放政策と国有企業改革

1978年の改革開放政策開始後、中国経済は劇的な発展を遂げました。その過程において、非効率な国有企業の改革が喫緊の課題となりました。1990年代後半には、国有企業の株式化、資産流動化、採算性のない部門の売却などが積極的に推進されました。これにより、金融、インフラ、エネルギーなど基幹産業の国際競争力は強化されました。しかし同時に、国有企業による寡占化も進み、民営企業の成長を阻害する要因ともなりました。

鄧小平の「南巡講話」(1992年)は、この改革の転換点となりました。経済発展の優先を明確に打ち出し、民営企業の参入が拡大。非効率な国有企業は民営企業との競争に晒され、多くの企業が経営難に陥りました。朱鎔基首相は断行的な国有企業改革を断行。「改制」と呼ばれる企業改革では、国有企業の所有権と経営責任の明確化、従業員の雇用制度改革などが実施されました。「抓大放小（大をつかみ小を放つ）」というスローガンのもと、規模の小さい国有企業は民営化されました。この一連の改革は「国退民進」と呼ばれ、国有企業の数は大幅に減少しました。しかし、国有総資産は増加しており、国有経済の構造変化が示唆されます。

胡錦濤体制下での政策転換と「国進民退」の始まり

2002年に胡錦濤政権が発足すると、国有経済の管理と堅持が強調されるようになり、民営化の動きは鈍化しました。2005年には、国有企業への支援を強化する一方、民営企業への支援策も打ち出されましたが、その後、「国有資本堅持」の方針が明確化され、「国進民退」の方向性が示されたといえます。2006年の「国有資産監督管理委員会の国有資本調整および国有企業再構築に関する指導意見（97号文件）」は、この政策転換を象徴するものです。

「国進民退」の実態：統計データと産業別分析

「国進民退」は、国有経済の絶対的な拡大を意味するものではありません。経済センサスデータによると、国有企業の企業数、従業員数は減少しています。しかし、産業別に分析すると、電力、ガス、水、交通運輸、金融、情報通信など特定産業においては、国有企業のシェアが拡大していることがわかります。これらの産業は、国家戦略的に重要なインフラや公共サービス関連産業が多く、政府による積極的な支援が背景にあります。また、国有企業による対外投資の増加や、株式市場における政府系投資家の影響力拡大なども、「国進民退」の一側面として指摘されています。

結論：中国経済の新たな課題

「国進民退」は、中国経済における新たな課題を示唆しています。国有経済の強化は、経済の安定性や国家安全保障の観点からはプラスに働く面もありますが、民営企業の成長を阻害し、経済全体の効率性を低下させる可能性もあります。透明性のある政策運営、競争促進、民営企業の保護など、よりバランスのとれた経済政策の必要性が改めて問われています。今後の中国経済の動向を分析する上で、「国進民退」は重要な視点となるでしょう。

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