国鉄マシ35形客車

マシ35形・36形客車

マシ35形・36形客車は、日本国有鉄道（国鉄）が昭和26年（1951年）に製造した食堂車です。主に東海道本線の特急列車「つばめ」・「はと」で使用されました。ここでは、同年に製造された同系車のマシ36形についても解説します。

概要

1950年度予算でスシ35形・スシ36形として発注され、翌1951年にマシ35形3両（1 - 3）が日本車輌製造で、マシ36形2両（1・2）が川崎車輛で製造されました。両形式は基本構造を共通としつつ、厨房設備に大きな違いがありました。マシ35形は従来の石炭レンジと氷式冷蔵庫を搭載した一方、マシ36形は厨房の完全電化を目指し、電熱コンロ・電気レンジ・電気冷蔵庫を試験的に搭載した電化キッチン設備車として登場しました。

車体

車体は、当時の標準型客車であるスハ43系に準じた鋼製で、全長19,500mm、最大幅2,912mm、最大高4,020mmです。しかし、スハ43系とは異なり、窓枠は防音を目的とした二重構造の鋼製でゴムによる弾性支持とし、内装には仕上げ鋼板（SPSR）やアルミ合金を使用するなど、徹底的な全金属化が図られました。また、床も防音のために二重構造とし、内部におがくずを充填するなど、当時の最新技術が盛り込まれました。

車内の食堂座席は1列+2列の3列構成で、定員は30名です。1位寄りにはソファを備えた喫煙室（定員6名）と配電室、2位寄りには料理室（厨房）と物置が配置されました。食堂室内のデザインは川崎車輛側の担当で、クリーム色を基調とし、マシ35形はコバルトブルー、マシ36形はオレンジを組み合わせたカラーリングが特徴でした。椅子はステンレスパイプ製、窓にはベネシアンブラインドが採用され、従来の食堂車とは一線を画す斬新な内装でした。

料理室のレイアウトは、戦前製のスシ37形・スシ38形などと大差なく、側廊下式で車内中央に加熱器具を集中させ、流しなどの水回りを窓側に配置しています。

換気は屋根上のガーランド式ベンチレータ6基で行われ、床下には冷房装置も搭載されていました。空気調和機と送気口は食堂両端の妻部に設けられています。

台枠にはUF131が使用され、切妻でデッキに相当する部分を持たない構造です。側板は、側窓上部のヘッダーと呼ばれる補強帯が内側に隠されている一方、側窓下部のウィンドウシルと呼ばれる補強板が露出したままでした。側窓部分の外板と窓上部の外板には段差があり、独特の外観を呈していました。

主要機器

台車

戦前の食堂車では、乗り心地を重視して3軸ボギー台車を使用するのが一般的でしたが、本形式以降は通常の2軸ボギー台車が採用されました。これは、台車設計技術の進歩や、冷房装置などの床下機器の増加に対応するためでした。特に防振に留意し、スハ42形などに用いられていたTR40形をベースに、枕ばねに定数の低い4列ばねを使用し、下揺れ枕と枕ばねの間に防振ゴムを挿入した新設計のTR46形が装着されました。

ブレーキ

当時標準のA動作弁によるAVブレーキ装置が搭載されました。

冷房装置

当初、マシ35形には川崎重工製のKM形冷房装置が、マシ36には三菱製のCAC12形冷房装置が搭載されました。マシ35形は車軸から直接動力を取り出す直接駆動方式、マシ36形は車軸発電機を電源とする電気駆動方式を採用し、停車中の冷房動作を可能にしました。

運用

東海道本線特急運用

竣工後、マシ35形は「はと」ならびに予備車として品川客車区、マシ36形は「つばめ」専用として宮原客車区に配置され、直ちに特急列車に投入されました。しかし、マシ36形は電気系統の不具合が頻発し、冷房装置のトラブルが深刻な問題となりました。そのため、1952年7月に冷房装置の大改良が行われ、自重が増加したためカシ36形に形式変更されました。冷房装置の動作は安定したものの、電気レンジや冷蔵庫の不具合は解消されず、1953年3月に石炭レンジと氷式冷蔵庫に交換され、マシ35形に改造編入されました（マシ35 11・12）。

東海道本線全線電化後

1956年11月の東海道本線全線電化に伴い、「つばめ」・「はと」は塗装を淡緑5号（青大将色）に塗り替えられましたが、食堂車は新造車のオシ17形に置き換えられました。

マシ35形1 - 3は、塗装変更されないまま夜行特急「あさかぜ」に転用されました。その後、1957年10月に「あさかぜ」運用からも外れ、1958年に冷房装置をオシ17形に準じたディーゼル機関直結駆動式に更新し、青15号を基調にクリーム1号の帯を巻いた塗装に変更され、尾久客車区に転属。「はつかり」に投入されました。1959年5月には「はつかり」運用からも外れ、同年9月に寝台急行「北斗」に充当されました。

マシ35形11・12は、1957年に塗装変更と同時に1 - 3と同様の冷房装置に換装。「つばめ」・「はと」用予備車となったほか、臨時特急「さくら」や急行列車「なにわ」にも使用されました。

近代化工事施工後

1960年から1961年にかけて、全車に側窓の複層固定ガラスアルミサッシ化、カーテン化、物資搬入扉の増設、屋根上ベンチレータの撤去、照明の蛍光灯化、食堂内カラーリングの変更などの近代化工事が施工され、オシ17形に準じた形態となりました。塗装も1965年以降は青15号に変更されました。

マシ35形1 - 3は函館客車区に転属となり、1965年までは急行「まりも」、それ以降は「ていね」に充当されました。11・12は尾久客車区に転属となり、1964年10月までは急行｢北斗｣・｢北上｣、それ以降は「十和田」に充当されました。1962年には電気暖房を搭載し、車両番号も2011・2012に改番されました。

1967年の急行「安芸」での食堂車火災事故を契機に、石炭レンジ搭載の旧式食堂車の危険性が指摘され、「ていね」に充当されていた1 - 3は1968年10月に運用を外れ、1969年に廃車されました。「十和田」に充当されていた2011・2012も、1970年10月にオシ17形に置き換えられ、同年中に廃車されました。現存する保存車はありません。

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