国際ドッキングアダプタ

国際ドッキングアダプタ (IDA)

国際ドッキングアダプタ（International Docking Adapter、IDA）は、国際宇宙ステーション（ISS）において、異なる規格の宇宙機ドッキングシステム間を相互接続するために設計された重要なモジュールです。具体的には、ロシア製のAPAS-95ドッキング機構と、より新しいNASAドッキングシステム（NDS）や国際標準ドッキングシステム（IDSS）との間で互換性を提供します。これにより、APAS-95を備えた宇宙機とNDS/IDSSを備えた宇宙機の両方が、ISSに安全かつ確実にドッキングできるようになります。

IDAは、ISSの「ハーモニー」モジュールに取り付けられた既存の与圧結合アダプタ（PMA）に設置されるよう計画されました。このPMAは元々、スペースシャトルとのドッキングや、他のモジュールとの結合に使用されていましたが、IDAを介することで、次世代の商用有人宇宙船など、新しい規格に対応した宇宙機のドッキングポートへと変換されるのです。

IDAの開発に至るまでには、いくつかの前身となる計画が存在しました。例えば、2008年に発表されたATLAS（APAS to LIDS Adapter System）は、APAS-95を低衝撃ドッキングシステム（LIDS）に変換する目的で、PMAへの取り付けが構想されていました。これは、オリオン宇宙船の初期のISSミッションでの使用が見込まれていましたが、オリオンのISS乗員輸送計画が変更され、商業乗員輸送プログラムに移行したことで中止となりました。また、2009年には共通ドッキングアダプタ（CDA）が提案されました。これは、日本の宇宙ステーション補給機（HTV）で輸送し、ハーモニーの前方と天頂側のポートに設置される計画で、ISSの共通結合機構をNASAドッキングシステムに変換するものでしたが、これも実現には至りませんでした。これらの開発中止となったアダプタの経験が、後のIDAの開発に活かされています。

IDAの設計は、単にドッキングを可能にするだけでなく、ドッキングした宇宙船とISSの間でクルーや貨物の移動、電力の供給、そしてデータの送受信といった多様な機能のやり取りをサポートすることを目的としています。アダプタ自体の重量は約526キログラム（1,160ポンド）で、基本的な寸法は高さ110センチメートル（42インチ）、幅160センチメートル（63インチ）です。ただし、ドッキングに必要な誘導用ターゲットやレーザー反射器などの外部システムを含めると、外径は約240センチメートル（94インチ）にもなります。IDAの製造はボーイング社が主契約者として担当し、ヒューストンにある同社の施設で組み立てが行われました。一次構造部材はロシアのRKKエネルギアから供給され、それ以外の多数の部品は全米各地の協力企業から納入されるという、国際的かつ広範な協力体制のもとで製作されています。

ISSへのIDAの設置は、宇宙船による輸送後、ロボットアームや宇宙飛行士による船外活動を伴う精密な作業です。具体的には、補給船（SpaceXのドラゴン宇宙船など）のカーゴ区画からデクスターというロボットアームを使用してIDAを取り出し、PMAの取り付け位置まで慎重に移動させます。その後、PMAに設けられた所定の取付部に正確に固定。最終的に、宇宙飛行士による船外活動（EVA）によって、電力やデータ用のケーブル接続が行われ、アダプタが完全に機能する状態になります。

当初の計画では、ISSに2基のIDAが設置される予定でした。IDA-1はハーモニーモジュールの前方にあるPMA-2に、IDA-2は天頂側にあるPMA-3に取り付けられる手筈でした。しかし、不測の事態によりこの計画は変更を余儀なくされます。

まず、最初のモジュールであるIDA-1は、2015年2月にボーイング社の工場からケネディ宇宙センターへ輸送され、打ち上げ前に動作試験が実施されました。しかし、2015年6月28日、IDA-1を搭載して打ち上げられたSpaceXのCRS-7ミッションが失敗に終わり、IDA-1は失われてしまいました。この喪失を受けて、2番目に製造されたIDA-2が、当初IDA-1が設置される予定だったPMA-2に取り付けられることになりました。

IDA-2は、2016年7月18日にSpaceXのCRS-9ミッションで打ち上げられました。そして、同年8月19日に行われた船外活動によって、無事PMA-2への設置が完了しました。IDA-2が初めてドッキングポートとして使用されたのは、2019年3月3日にボーイング社開発の無人宇宙船「クルードラゴン Demo-1」がISSに到着した時です。これにより、ISSが新しい商業宇宙船を受け入れる体制が整いました。

失われたIDA-1の代替として、新たにIDA-3が製造されました。IDA-3は、開発期間を短縮し速やかに打ち上げるため、既存の予備部品を最大限に活用して構成されました。2019年7月にSpaceXのCRS-18ミッションで打ち上げられ、同年8月21日の船外活動によって、当初IDA-2が設置される予定だったPMA-3に取り付けられました。IDA-3が最初にドッキングに使用されたのは、2020年12月7日にSpaceXのCRS-21ミッションで貨物用ドラゴン宇宙船が到着した際です。このように、ISSは合計2基のIDAモジュール（IDA-2とIDA-3）を備え、異なるドッキングシステムを持つ宇宙機との結合能力を強化しています。

IDAは、ISSへのアクセスを多様な宇宙機に開放し、今後の有人宇宙飛行や物資輸送の柔軟性を高める上で、不可欠なインフラとしての役割を担っています。

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