園田兵助

園田 兵助（そのだ ひょうすけ／へいすけ）

日本の獣医師。現在の鹿児島県で黒豚（かごしま黒豚）生産の基盤を築いた功績から、「黒豚の父」と称されます。

生涯

園田兵助は、1864年（元治元年）4月1日、薩摩国川辺郡鹿籠郷、現在の鹿児島県枕崎市に生を受けました。父である園田仲兵衛は、藩の馬の管理や調教を行う藩馬役という役職にありました。兵助は幼い頃から父の仕事を見習いながら育ち、馬をはじめとする家畜と深く関わる環境で成長しました。

1895年（明治28年）、兵助は獣医師の免許を取得し、生家の一部で開業しました。獣医としては、病気や怪我をした家畜に対して非常に丁寧な治療を行ったため、近隣の農民たちからは厚い信頼を寄せられました。一方で、自身の不注意で家畜を怪我させてしまった飼い主には厳しく叱責することもあり、情熱的かつ厳格な人柄であったことがうかがえます。

獣医師としての活動の傍ら、兵助は十数頭のホルスタイン種の牛を購入し、牛乳の販売事業も手がけていました。

地域産業の振興への貢献

明治中期、兵助が暮らしていた枕崎近郊は、耕地が狭く、さらに毎年のように襲来する台風によって農作物に大きな被害が出ていました。このため、農業や沿岸漁業を営む人々の生活は非常に苦しい状況にありました。地域の窮状を目の当たりにした兵助は、枕崎に適した新たな産業を模索し始めます。

彼は、台風の影響を受けにくい作物であるサツマイモや、沿岸で獲れる魚類を飼料として活用できる養豚業に着目しました。サツマイモは地域の気候に適しており、台風による被害も比較的少ないことから、養豚の安定的な飼料供給源となり得ると考えたのです。

兵助は、自ら農家を一軒一軒訪ねて養豚を熱心に勧めました。その結果、明治40年代（1907年〜1912年）には、枕崎地域で数百頭もの豚が飼育されるまでに養豚業が広がりました。

このとき兵助が推奨したのは、当時日本で広く飼育されていた品種ではなく、イギリスから輸入されたバークシャー種でした。新たな産業として養豚を根付かせるには、最高の肉質を持つ優れた品種を導入することが不可欠だと判断したためです。当時からバークシャー種は肉質の評価が高かったものの、兵助はさらなる品質向上を目指し、積極的に品種改良にも取り組みました。

養豚組合の設立と地域活動

養豚業を地域産業として発展させるためには、生産技術の向上だけでなく、安定した販売経路の確保と豚肉の需要拡大が不可欠であると考えた兵助は、養豚組合の設立にも尽力しました。自ら積極的に養豚農家を回って組合への参加を呼びかけました。その結果、1910年（明治43年）には枕崎養豚組合が設立され、兵助は満場一致で初代組合長に推挙されました。

彼はその死まで25年間にわたり組合長を務め、地域の養豚業の発展と生産者の地位向上に尽力しました。また、組合長としての活動と並行して、村会議長や川辺郡会議員、枕崎衛生組合長といった地域の要職も歴任し、多方面から地域社会の発展に貢献しました。

没後の顕彰

1935年に兵助が亡くなった後も、彼の築いた養豚業の基盤は地域に受け継がれました。その功績を称えるため、没後22年を経た1957年（昭和32年）には、養豚関係者ら4000人を超える人々からの寄付により、兵助が生誕した地に銅像が建立されました。

また同年、兵助の実子である園田実治（そのだ さねはる）氏からの寄付を基に、枕崎市で開催される豚の共進会（品評会）において、最も優秀な豚の飼育者に贈られる「兵助杯」が設けられました。これにより、園田兵助の養豚業に対する情熱と功績は、今日まで地域の誇りとして語り継がれています。

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