土居一洋

兵庫県神戸市で生まれ、徳島県鳴門市で育った土居一洋（1978年 12月14日生まれ）は、環境問題への深い関心を持つ実業家、そしてかつては環境運動家として知られています。

自動車関連の専門学校を中退後、愛知県で工場の派遣社員などを経て、2003年秋に岡崎市に落ち着きました。住宅関連企業のサラリーマンとして働いていた2004年春、豊田市の書店で一冊の本に出会います。それが、20世紀における人類の行動の負の側面を描いた写真集『百年の愚行』でした。

この本を読んだ土居氏は、その内容に強い衝撃を受けます。当時社会問題となっていた飲酒運転を減らすため、移動式バーの開業資金を貯めていた矢先のことでした。「バーが客の元へ行けば、移動の手間が省け、飲酒運転も減るだろう」と考えていた自身の目的に疑問を感じ、それよりも『百年の愚行』を通して多くの人に環境問題への意識を持ってもらうことこそが重要だと考えるようになります。

近くの図書館に『百年の愚行』がないことを知り、司書に交渉して蔵書してもらうことに成功します。数日後、既に3人の利用者がいたことを知り、この活動には可能性があると感じた土居氏は、全国の公立図書館に同書を置いてもらうための旅に出ることを決意しました。2005年1月、勤めていた会社を辞め、自宅を飛び出し、自家用車を売却して得た30万円を手に旅を開始。しかし、この活動は思うように進まず、多くの図書館でセールスと間違われ、門前払いに遭うなど苦労を重ねました。

交渉活動に疲弊し、伊豆半島の海岸で途方に暮れていた際に出会った干物売りの女性から、「見た目でアピールしてみてはどうか」との助言を受けます。この言葉から、「自分自身が図書館になれば、置きたい本を自由に並べられる」という発想が生まれ、「じてんしゃ図書館」構想が始動しました。

最初はリサイクルショップで500円で購入したベビーカーを改造して本を積み、自転車で牽引するスタイルでした。その後、日本の古いものへの愛着から、約1ヶ月かけて水車の形をした特徴的な本棚を作成。これを自転車（ランドナー）に取り付け、再び全国各地の公立図書館を巡る旅に出ました。この頃から、活動の雰囲気に合わせて和装で過ごすようになります。旅の途中では様々なアルバイトをして生活費や書籍購入費を捻出し、自らの食生活は質素に保ちました。この活動は口コミで徐々に広がり、各種メディアで紹介されるようになり、各地で講演活動も行うようになります。初のメディア露出は、紀行ライターの石田ゆうすけ氏によるアウトドア雑誌『BE-PAL』の記事でした。

約7年10ヶ月に及んだ旅は、幾多の困難を伴いました。宮城県仙台市で交通事故に遭い、自転車と共に水車型本棚が大破。修理を試みるも断念せざるを得ず、一時放置していた間にゴミとして廃棄されてしまいます。この出来事に一度は活動継続を諦めかけ、実家に帰省しますが、それまでに本を貸し出した人々の顔を思い出し、「途中でやめたくない」「自分が広めなければ誰が広めるのか」と奮起し、旅を再開しました。また、高知県でも自動車に追突される事故に遭うなどしましたが、怪我は大事に至らず、旅を継続。最終的に、全国2640館もの公立図書館を訪問し、2012年11月10日、愛知県岡崎市で長旅を終えました。

「じてんしゃ図書館」で取り扱ったのは、環境問題、社会問題、戦争関連などの書籍です。中でも『百年の愚行』は活動の原点として常に携行していましたが、これは貸出対象外でした。その他の書籍は無料で貸し出し、返却は不要。代わりに、本を読み終えたら本に葉っぱを一つ描いて次の人に渡すというユニークなルールがありました。貸し出した本の総数は1540冊に上ります。本棚は初代のベビーカーから始まり、水車型としては5代目、全体では6代目が最後の図書館となりました。

旅を終えた後、土居氏は実家に戻り、アルバイトをしながら過ごしました。活動のきっかけとなった『百年の愚行』の出版社であるThink the Earthを訪れ、編集担当者と交流。同書の大判本を図書館に寄贈するなど、活動の縁を繋ぎました。また、大阪府での材木関係の仕事や、母校での講演なども行っています。

現在は、新たな挑戦として団子屋「ひとえや」を営んでいます。2014年頃に愛知県豊田市で開業し、当初は移動式の屋台でした。この屋台は茅葺屋根を載せた特徴的な外観で、設営に丸一日かかるほどでした。飲食や衛生に関する資格を取得し、全国で営業できるようになりました。2021年8月には、三重県津市白山町に移住し、購入した古民家を改装して店舗として正式に開業。「ひとえや」では、食材から調理法に至るまで日本の伝統にこだわり、特に国産純度100%の蕨粉を使った蕨餅は、全国でも数少ない希少な逸品として知られています。その活動はメディアにも取り上げられ、テレビ番組でも紹介されました。

誠実な人柄で知られる土居氏ですが、過去にはモヒカンにするなど荒れていた時期もあったといいます。旅の中では、傘職人や炭焼職人など、後継者が少ない伝統職人との貴重な出会いが数多くありました。旅の様子は岐阜県の伊藤泰史氏によって密着取材され、映像作品化もされています。長年預かってもらっていた荷物を旅の終わりまで処分されずに保管されていたエピソードや、年末のピザ配達アルバイトでサンタクロースの衣装を着ることに抵抗を感じた話など、土居氏の人となりを示すエピソードも多く残されています。旅を終えた時の心境について、紀行ライターの石田ゆうすけ氏に「寂しさはないか」と問われ、「全くない。むしろ『やっと終わりやがったか』という気持ち。そもそもこんな旅、したくなかった」と答えた言葉は、旅が楽しいものではなく、強い使命感に支えられた過酷な道のりであったことを物語っています。

土居氏は一般企業での勤務を経て、現在は環境運動家としてのプロジェクトからは一線を画し、三重県で団子屋「ひとえや」の店主として、伝統的な食文化の継承に力を注いでいます。旅中からの交流がある紀行ライターの石田ゆうすけ氏とは現在も親交が続いています。かつて公式サイトやSNSアカウントも開設していましたが、現在は更新されていません。

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