土祭

土祭：益子町の風土を紡ぐ、住民参加型アートイベント

栃木県芳賀郡益子町で3年ごとに開催される「土祭（ひじさい）」は、益子町の豊かな風土と住民の創造性を融合させた、ユニークなアートイベントです。単なるお祭りではなく、町の活性化、地域住民の連携強化、そして益子町の魅力発信を目的とした、住民参加型の試みとして注目を集めています。

土祭の始まり：町の未来を模索する取り組み

平成の大合併後、財政難に直面した益子町は、新たな町の活性化策を模索していました。そんな中、町長の大塚朋之氏から、カフェギャラリー「starnet」を主宰していた馬場浩史氏（総合プロデューサー）に相談が持ちかけられます。限られた予算の中で、益子の魅力を生かした持続可能な取り組みはできないか、という問いかけでした。この相談をきっかけに、益子の歴史と文化、そして「土」という町のアイデンティティを深く掘り下げたイベント、「土祭」が構想され、2009年に第一回目が開催されました。

「土」というテーマは、益子町の主要産業である益子焼（窯業）と農業の両方に深く関わっており、その古代からの呼び名である「ひじ」から「土祭」という名称が付けられました。これは、馬場氏と盟友である武田好史氏によって命名されたものです。

各回の土祭：多様な企画と地域住民の熱意

土祭は、3年ごと、秋の9月（新月から満月までの期間）に開催され、2009年、2012年、2015年、2018年、2021年と、これまでに5回開催されました。また、その前年にはプレイベントとして「前・土祭」も開催され、地域住民のイベントへの関与を深める役割を果たしてきました。

各回の土祭では、益子町の歴史や文化、自然環境をテーマにした様々な企画が展開されました。益子焼の歴史を振り返る展示、町民参加型のワークショップ、音楽演奏会、地元食材を使った飲食ブースなど、多様な催しが町全体を活気に満ちた空間へと変貌させてきました。特に注目すべき点は、住民参加型のプロジェクトが数多く含まれていることです。町民自らが企画・運営に携わることで、イベントへの愛着と一体感が育まれ、持続可能なイベント運営に繋がっています。

初期の土祭では、空き家対策や商店街活性化、環境プログラムの導入なども意識した企画が多く見られ、地域社会への貢献という側面も強く打ち出されていました。例えば、放置竹林の間伐材を使った竹製テントの設営や、著名な左官職人を招いて制作された「土舞台」などは、環境配慮と伝統技術の融合という土祭の理念を象徴するものです。

土祭を取り巻く状況：町長選挙とイベントの未来

2021年に開催された土祭は、コロナ禍の影響を受けながらも開催されました。しかし、この開催を巡っては、翌年の益子町長選挙において大きな議論を呼びました。町長選に立候補した広田茂十郎氏は、土祭の行政主導的な運営や、イベント開催による町の負担、生活環境優先の施策への転換などを訴えました。そして、大塚町長を破り当選。イベントとしての土祭の見直しを公約に掲げていました。

広田新町長は土祭そのものを否定するわけではなく、行政主導的な側面や住民参加の在り方などを改めて検討する必要性を示唆しています。土祭の今後の在り方は、益子町の将来像と深く関わっており、今後の展開が注目されます。

土祭と地域：タウン誌『ミチカケ』

土祭をきっかけに制作されたタウン誌『ミチカケ』は、益子町在住者による執筆で、町の魅力を紹介する冊子です。全国各地で無料配布され、益子町の魅力を広く発信する役割を果たしました。

まとめ：持続可能な地域活性化への模索

土祭は、単なるイベントにとどまらず、益子町の未来を担う重要な試みです。その成功と課題は、地方自治体における住民参加型イベントのあり方、持続可能な地域活性化のモデルケースとして、多くの示唆を与えてくれるでしょう。今後、土祭がどのように進化し、益子町と共にあるのか、注目して見守りたいものです。

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