地の骨

『地の骨』

松本清張による長編小説『地の骨』は、1964年から1966年にかけて連載され、1967年に新潮社から単行本が発行されました。本作は、大学の権力争いや人間関係を描いた作品として、読者に深い印象を与えています。小説はその後、1980年と1984年にテレビドラマ化され、幅広いメディアで親しまれています。

概要とあらすじ

物語は、東京にある大和大学を舞台に展開されます。主人公の稲木治夫は、同大学の助教授として教鞭をとっていますが、ある日、町野啓子との密会の後、タクシーの中に入試問題の原案を置き忘れてしまいます。このミスが引き金となり、稲木は大学内の権力争いに巻き込まれることになります。

稲木は問題の草稿を取り戻すことに成功しますが、その過程で楢沢夾子という美しい実業家と出会い、彼女に魅了されてしまいます。この出会いがさらに物語を動かし、複雑な人間関係を形成していきます。

一方、川西という教授は、稲木の行動を利用して有田専務理事に対抗しようと画策します。川西は入試問題の紛失に気づき、それを利用して稲木を攻撃しようとしますが、思わぬ展開によって彼の計画は頓挫します。また、彼は竹岡総長が高額な住宅を建設していることに気づき、大学の資金流用についての疑念を持ちます。

このように、権力闘争や裏切り、恋愛感情などが絡み合い、登場人物たちの心理が複雑に描かれています。

主な登場人物

• - 稲木治夫: 大和大学の助教授で、若手の学者として新たな道を歩んでいます。彼の過ちが物語を引き起こします。
• - 川西: 大和大学の教授で、野心家。稲木との対立を通じて物語が進展します。
• - 楢沢夾子: 繁華街を舞台に美しさと知性を兼ね備えた実業家。稲木の心を捉えます。
• - 町野啓子: 銀座のバーのマダムで、大学の内幕に影響を与える人物です。
• - 有田卓郎: 大和大学の専務理事で、経営の実権を握る重要なキャラクターです。
• - 上条康彦: 稲木の師匠で文学部長。稲木を支える存在。

エピソードと背景

小説連載中に、著者自身が大学の内部事情を見通した評価がされています。この作品には大学の内部での権威の二重構造や、問題点が描かれています。実際に、作品の連載期間中に起きた学生たちによる授業料値上げ反対運動といった現実の出来事も、作品のリアリティを引き立てています。

また、作品は社会情勢を反映させながら展開され、特に入試問題の裏口入学に関する描写は、多くの人に衝撃を与えました。清張は、現実の問題が持つ迫力に対し、作品が及ばないことを漏らしたとされています。

テレビドラマ化

『地の骨』は1980年と1984年にテレビドラマ化されました。1980年版では、税金の無駄や不正を扱ったサスペンスとして注目を集め、1984年版では主人公が変わるなど新たな視点で制作されました。

このように、『地の骨』は権力、倫理、愛情の綱引きを描いた深みのある作品で、多くの人々に影響を与え続けています。

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