地獄の対決

映画『地獄の対決』（Inferno）

1953年に製作されたアメリカ映画『地獄の対決』は、原題を『Inferno』といい、フィルム・ノワールのジャンルに属する作品です。広大なモハーヴェ砂漠を舞台に、人間の欲望や裏切りが交錯するドラマが展開されます。

本作を手掛けたのは、後に『ノックは無用』といったサスペンス作品でその手腕を発揮するロイ・ウォード・ベイカー監督。彼はこの作品で、当時の最新鋭技術であった3D撮影を大胆に採用しました。これは、1950年代にハリウッドで起こった一時的な3D映画ブームの中で生まれた作品の一つと言えます。立体映像の導入は、砂漠という広大ながらも閉鎖的な環境における登場人物たちの緊迫した心理状態や、閉塞感を強調する効果を狙ったものと考えられます。

物語の中心となるのは、莫大な富を持つ実業家とその若き妻、そして妻が密かに情を交わす別の男性という、三人の関係性です。詳細なプロットは明かされていませんが、こうした三角関係が、人里離れた砂漠という極限状況の中で、どのような愛憎劇や裏切りを生み出すのかが本作の見どころとなるでしょう。フィルム・ノワール特有の退廃的な雰囲気や、人間の暗い側面を描き出すスタイルが、砂漠の乾いた風景とどのように融合しているのかが興味深い点です。

主要な出演者としては、主人公である億万長者をロバート・ライアンが演じ、その妻をロンダ・フレミングが、そして妻の愛人をウィリアム・ランディガンがそれぞれ演じています。特にロバート・ライアンは、ノワール作品において複雑なキャラクターを演じることが多く、本作でもその重厚な演技が期待されます。

本作の製作には、多才なスタッフが集結しました。製作はウィリアム・ブルーム、脚本はフランシス・M・コックレルが担当しています。音楽はポール・ソーテルが手掛け、ライオネル・ニューマンが音楽監督を務めました。撮影監督はルシアン・バラード、編集はロバート・シンプソン、美術はライル・ウィーラー、衣裳デザインはドロシー・ジーキンスと、当時のハリウッドを支えた職人たちが作品世界を構築しています。

日本においては、残念ながら公開当時に劇場で上映される機会はなく、長らく幻の作品となっていました。しかし、後にテレビ放送という形で日本の映画ファンに紹介されることとなります。

また、『地獄の対決』は後年、リメイクもされています。1973年にテレビ映画として製作された『Ordeal』がそれで、監督はリー・H・カッツィンが務めました。出演キャストはアーサー・ヒル、ダイアナ・マルドア、ジェームズ・ステイシーといった面々です。オリジナル版とは異なるキャストとスタッフで、どのようにこの人間ドラマが再構築されたのかも比較する上で興味深いでしょう。

このように、『地獄の対決』は、フィルム・ノワールの持つダークな魅力と、1950年代の3D映画というユニークな要素が組み合わさった作品です。モハーヴェ砂漠という非日常的な舞台が、登場人物たちの心理的な葛藤やサスペンスをより一層際立たせています。複雑な人間関係と、逃げ場のない環境が織りなすドラマは、公開から時を経てもなお、観る者に強い印象を与えることでしょう。

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