地球の皮を剥ぐ

『地球の皮を剥ぐ』（ちきゅうのかわをはぐ）

概要

『地球の皮を剥ぐ』は、1963年にイタリアで製作されたドキュメンタリータッチの衝撃作です。原題は「Il Mondo di Notte N.3」、別題として「Ecco」、英語圏では「This Shocking World」のタイトルでも知られています。本作は、1960年代に隆盛を極めたモンド映画というジャンルに属し、社会の表層からは見えにくい人間の秘められた欲望や、時に常軌を逸した現実の側面を、望遠レンズや隠しカメラといった特殊な撮影手法を用いて捉えようとした作品です。当時の常識では考えられないような、センセーショナルでタブー視されがちな事柄を、あたかも秘密を覗き見るかのような感覚で観客に提示します。

内容

本作が描き出す世界は、観る者に強い衝撃を与える場面の連続です。華やかな社交界に初めて足を踏み入れる若い女性たちの初々しい姿が映し出される一方で、その裏側では倒錯した世界が展開します。例えば、血生臭い描写で知られるパリのグラン・ギニョール座で行われる凄惨な演劇。剣士たちが真剣で戦い、鮮血が飛び散るかのような激しいフェンシング競技。さらには、黒ミサを思わせるような異様な儀式の光景までが収められています。これらの「ホラーショー」とも呼べる場面は、当時の観客に強い生理的嫌悪感や好奇心をもたらしました。

また、性的な要素も本作の重要な柱となっています。女性の肉体的な魅力を競う「ヒップ・コンテスト」や、露骨なヌードを晒すショー。特に、リタ・レノアをはじめとするストリップダンサーたちがフロアを所狭しと動き回り、観客の目の前で挑発的なダンスを披露する場面は、当時の社会規範から大きく逸脱しており、スキャンダラスなものとして受け止められました。さらに、自己の肉体に太い針を何度も突き刺して見せる男性のような、常軌を逸したパフォーマンスも含まれており、人間の肉体の限界や倒錯した精神世界の一端を垣間見せます。

これらの多様で衝撃的な場面を、本作はドキュメンタリーフィルムという体裁を取りながら、編集や音楽、ナレーションによって巧みに構成しています。観客は、通常ならば知り得ないような禁断の世界を、あたかも秘密裏に覗き見しているかのような独特の感覚を味わうことになります。エロティシズムと残酷さ、そして人間の奇妙な行動の数々が混在し、観る者の倫理観や価値観を揺さぶることを意図して作られています。

制作背景とスタッフ

本作の監督を務めたのはジャンニ・プロイアです。製作はフランチェスコ・マッツェイが担当しました。撮影にはジャンニ・ナルツィージ、バルディ・シュワルツェ、エモニュエル・ディ・コーラの3名がクレジットされています。彼らは時に隠しカメラや望遠レンズといった手法を駆使し、被写体の自然な、あるいは隠された姿を捉えようとしました。音楽は、モンド映画を数多く手掛けたリズ・オルトラーニが担当しており、時にムードを盛り上げ、時に不穏な雰囲気を醸し出すスコアが、映像の衝撃性を高めています。

日本での公開

日本では、東宝東和の配給により1963年12月25日に公開されました。日本語版の制作も行われ、解説は牟田悌三、台本は前田武彦が担当しました。日本語での解説や台本が付加されることで、日本の観客はより一層、本作が提示する異様な世界の詳細を知ることができました。

ジャンルにおける位置づけ

『地球の皮を剥ぐ』は、イタリアで生まれた「モンド映画」（mondoはイタリア語で「世界」を意味する）というドキュメンタリー風のフィルム群の中でも代表的な一本とされています。このジャンルは、世界の奇習、異常な事件、禁断の場所などをセンセーショナルに描くことを特徴としており、しばしばその倫理性が問われました。また、「夜モノ映画」と呼ばれる、深夜や大人の世界をテーマにした一連の日本映画との関連性も指摘されることがあります。本作は、人間の隠された本能や社会の暗部を暴こうとするモンド映画の精神を色濃く反映した作品と言えるでしょう。

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