坂倉新兵衛

坂倉新兵衛

坂倉新兵衛（さかくら しんべえ）とは、山口県長門市深川にある萩焼の窯元、坂倉新兵衛窯において、その当主が代々襲名している陶芸作家としての名跡です。この名は、江戸時代初期に萩焼の歴史が始まった頃から続く、約400年の重みを持つ伝統の証と言えます。現在の当主は、十六代坂倉新兵衛正紘氏です。

名跡の起源と歴史

坂倉新兵衛の名跡の起源は、慶長9年（1604年）にまで遡ります。当時、長州藩の藩主であった毛利輝元公は、優れた陶磁器製造の技術を藩にもたらすため、李氏朝鮮から二人の陶工、李勺光（り しゃくこう）と李敬（り けい）の兄弟を招きました。彼らは、萩城下近くの松本村に藩の御用窯を築き、これが後の萩焼の基盤となります。

この李勺光・李敬兄弟のうち、兄である李勺光が、坂倉新兵衛という名跡の初代となります。その後、この名は子孫によって代々受け継がれ、萩焼の歴史とともに歩んできました。当初は初代李勺光の姓を引き継いでいましたが、六代目からは「坂倉」と改姓し、現在の名字が定着しました。この改姓は、窯元が日本の文化、特に萩焼の伝統を継承していく上で重要な節目となりました。

歴代の歩みと特筆すべき功績

坂倉新兵衛の名跡は、初代から現代に至るまで、多くの優れた陶工たちによって継承されてきました。彼らはそれぞれの時代において、萩焼の技術や様式を発展させ、その価値を高めてきました。特に歴代の中で特筆されるのは、十二代坂倉新兵衛です。当時の萩焼は一時的な不振に直面していましたが、十二代はその卓越した技術と情熱により、萩焼を全国に広め、その復興に大きく貢献しました。この偉大な功績から、十二代坂倉新兵衛は「萩焼の中興の祖」と称され、現代の萩焼繁栄の礎を築いた人物として、その名が今も語り継がれています。

継承される伝統と現代

坂倉新兵衛の名は、初代李勺光に始まり、二代山村新兵衛光政、三代平四郎光俊、四代弥兵衛光信、五代源次郎光長、そして改姓した六代坂倉藤左衛門へと続きました。その後も七代五郎右衛門、八代半平、九代平助、十代九郎右衛門、十一代新兵衛多吉、十二代新兵衛、十三代新兵衛光太郎、十四代新兵衛宗治、十五代新兵衛正治と、それぞれの時代を代表する陶工たちがこの重みを担ってきました。そして現在、この長い歴史と伝統は、十六代坂倉新兵衛正紘氏に受け継がれています。

歴代の坂倉新兵衛は、創業以来の伝統的な技法や精神を守りつつも、時代の変化に対応しながら新たな作陶にも挑戦してきました。彼らの手から生まれる作品は、萩焼特有の柔らかな土味や、茶人の間で珍重される「萩の七化け」と呼ばれる釉薬の変化を特徴とし、国内外で高く評価されています。

歴代一覧

初代：李勺光
二代：山村新兵衛光政（号：正庵）
三代：平四郎光俊
四代：弥兵衛光信
五代：源次郎光長
六代：坂倉藤左衛門 (改姓)
七代：五郎右衛門
八代：半平
九代：平助
十代：九郎右衛門
十一代：新兵衛多吉
十二代：新兵衛
十三代：新兵衛光太郎
十四代：新兵衛宗治
十五代：新兵衛正治
十六代：新兵衛正紘 (当代)

坂倉新兵衛という名跡は、単に個人の名前ではなく、萩焼が歩んできた歴史そのものを象徴し、多くの人々の情熱と努力によって支えられてきた伝統の結晶と言えるでしょう。その継承は、これからも萩焼の未来を担っていく重要な役割を果たしていきます。

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