坂崎乙郎

坂崎乙郎：夭逝の美術史家

坂崎乙郎（1928年1月1日-1985年12月21日）は、20世紀後半を代表する西洋美術史研究家、美術評論家です。早稲田大学教授を務め、美術史家である坂崎坦を父に持ち、東京で生まれました。

ドイツ表現主義への深い造詣

坂崎乙郎の研究活動は、ドイツ表現主義や幻想絵画に深く傾倒したものでした。代表的な著書『夜の画家たち』では、これらの画家の作品世界を詳細に紹介、評論しています。単なる作品紹介にとどまらず、画家たちの内面や時代背景を丁寧に解き明かし、その芸術的意義を深く考察した内容は、高く評価されています。

彼は、ドイツ表現主義のみならず、シュールレアリスムなどの幻想絵画にも造詣が深く、数々の著作でこれらの画家の作品世界を独自の視点から分析しています。彼の著作は、専門家だけでなく、一般の美術愛好家にも広く親しまれ、西洋美術理解の普及に大きく貢献しました。

無名の芸術家への支援

著名な画家だけでなく、坂崎乙郎は才能あふれるながらも世に知られていない芸術家たちの発掘と紹介にも尽力しました。深井克美など、無名の芸術家たちの作品を積極的に紹介し、彼らがその才能を存分に発揮できるよう支援しました。これは、彼の美術に対する情熱と、後進を育成しようとする強い意志の表れと言えるでしょう。

悲劇的な最期

1985年9月7日、盟友である画家・鴨居玲が自殺するという悲劇に見舞われます。その悲しみは深く、同年12月21日、坂崎乙郎自身も自殺という形で生涯を閉じました。彼の早すぎる死は、美術界に大きな衝撃を与え、多くの関係者を深い悲しみに沈ませました。

研究活動と著作

坂崎乙郎は、早稲田大学大学院美術史科を卒業後、西ドイツやパリに留学し、西洋美術に関する深い知識と見識を磨きました。1979年には早稲田大学教授に就任し、後進の育成にも力を注ぎました。

彼の著作は多岐に渡り、『マチス、ルオーと表現主義』、『クレー』、『ヨーロッパ美術紀行』、『抽象の源流 その先駆者たち』、『幻想の建築』など、数多くの単著を発表しています。また、『幻想の絵画』や『シャガール 人と芸術』などの共編著、リオン・フォイヒトヴァンガーの『ゴヤ スペインの戦慄』やパウル・クレーの『造形思考』などの翻訳なども手掛けています。これらの著作は、現在でも美術史研究の重要な資料として活用されています。

彼の著作は、単なる美術史の記述にとどまらず、それぞれの作品に込められた思想や、時代背景を踏まえた上で、芸術家の内面や創作意図を深く読み解こうとする姿勢が貫かれています。その緻密な分析力と、情熱のこもった文章は、読者に深い感動を与え、美術への理解を深めることに貢献しています。

まとめ

坂崎乙郎は、その短い生涯の中で、数々の著作を発表し、西洋美術史研究に多大な貢献をしました。彼の作品は、現在でも美術史研究において重要な位置を占めており、多くの美術愛好家たちに影響を与え続けています。盟友の後を追うように自ら命を絶った彼の最期は、悲劇的でありながらも、彼の美術への深い情熱を改めて感じさせるものです。

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