坂本鐵司

坂本 鐵司（さかもと てつじ）

日本の工業デザイナーであり、ユニバーサルデザイン（UD）の研究者としても知られています。1945年生まれ。神奈川県茅ヶ崎市を主な活動拠点としています。長年にわたり、福祉用具や住宅設備機器の分野で、使いやすさとデザイン性を兼ね備えた製品開発に取り組み、日本のUD普及に大きく貢献しました。

略歴

静岡県浜松市で育ち、千葉大学工学部で工業意匠を学びました。大学卒業後、1970年に東陶機器株式会社（現在のTOTO）に入社し、デザイン部に配属されます。入社から間もない1973年からは、まだユニバーサルデザインやバリアフリーという言葉自体が一般的でなかった時代から、身体に障害のある方や高齢者のための衛生設備器具の研究・開発に精力的に着手しました。デザイン業務と並行して、こうした先進的な取り組みを進め、公共プロジェクトにも関与しました。社内では、デザイン部部長や生活研究部部長兼シルバー研究室室長などを歴任し、UD関連の研究開発部門を主導しました。2001年に同社を退職後、神奈川県茅ヶ崎市に司ユニバーサルデザイン研究所を設立し、所長に就任。現在は、静岡文化芸術大学デザイン学部の教授（過去には生産造形学科長も務める）として教鞭をとる傍ら、ホームヘルパーとしての資格を活かし、実際に介護の現場にも毎週赴いています。理論的な研究や教育活動に加え、現場での実践的な経験を重視する姿勢は、氏のUDに対する深い洞察と強い情熱を示しています。現在も、日常生活の困難を軽減する自助具に焦点を当てたプロジェクト（JDP）など、新たな活動を継続しています。

ユニバーサルデザインへの貢献

坂本氏の工業デザイナーとしてのキャリアにおいて特筆すべきは、東陶機器時代におけるバリアフリーおよびUD製品の開発への貢献です。当時、福祉機器は限られた層のための特殊なものと見なされがちでしたが、氏はいち早く、誰もが使いやすい製品開発の重要性を見抜きました。その代表的な実績として挙げられるのが、温水洗浄便座「ウォシュレット」です。もともとは医療・福祉用途から開発がスタートしましたが、改良を重ねることで一般家庭に爆発的に普及しました。これは、特定のニーズに応えるデザインが、結果としてより広範な人々の快適性向上に繋がるという、UDの理念を体現する典型例と言えます。また、浴室やトイレの手すりを単なる機能部品としてではなく、室内のデザイン要素として捉え、インテリアに調和する「インテリアバー」を開発したことも、大きな功績です。これにより、手すりが公共施設だけでなく、一般住宅にも抵抗なく取り入れられるようになり、建築におけるバリアフリー化を促進しました。さらに、浴槽や便器などを統合したシステムとしての「ユニットバス」の開発など、住宅設備全体のシステム化と使いやすさの向上にも寄与しました。これらの製品開発を通じて、システムキッチン、洗面台、照明付き傾斜鏡、車椅子対応便器など、様々な生活空間におけるUDの実現に取り組みました。氏が開発に携わった多くの製品が一般家庭に広く普及したことは、バリアフリーやユニバーサルデザインといった概念が社会に認知され、根付いていく上で、非常に大きな役割を果たしたと言えます。国内外のデザインコンペでの多数の受賞歴も、氏のデザインが高く評価されてきた証です。

著書・連載

ユニバーサルデザインや福祉工学に関する複数の著書や連載を執筆し、その知見を広く共有しています。

『福祉用具の明日を拓く』（ダイア高齢社会研究財団）
『超高齢社会の福祉工学』（共著、中央出版社）
『新建築住宅特集』（新建築社）

また、専門誌やウェブサイトでの連載も行っていました。

『ノーマライゼーションの地平』（1997年～1999年）
* TOTOウェブサイトでのWEBセミナー『楽＆楽計画どっとこむ』（～2009年3月）

坂本鐵司氏は、デザインの実践、学術研究、そして介護現場での実践という三位一体の活動を通じて、すべての人々が快適に暮らせる社会の実現を目指し、現在もその取り組みを続けています。

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