坊野寿山

坊野 寿山（ぼうの じゅざん）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の川柳作家です。1900年9月9日に生まれ、1988年10月25日に88歳で生涯を終えました。本名は寿三郎。特に、花柳界を題材にした川柳「花柳吟」の分野で第一人者として評価されています。また、落語家たちとの間に深い親交を持ち、彼らが川柳を学ぶための会合を長年にわたり指導した人物としても記憶されています。

経歴と人物

寿山は、東京府東京市日本橋区（現在の東京都中央区東日本橋）の裕福な木綿問屋に五男として生まれました。中央商業学校（現在の中央大学商学部）に在学中の1921年、友人と共に「二十日会」を結成し、本格的に川柳創作の道に入りました。

一方、生来の落語好きが高じ、早くから噺家たちとの交流が始まりました。経済的に恵まれない噺家たち、例えば、甚語楼時代の五代目古今亭志ん生などに対して、「旦那」として物心両面での支援を行ったといいます。

1930年または1931年には、四代目柳家小さんや五代目三遊亭圓生からの請けにより、落語家たちの川柳会「鹿連会」の師範を務めることになりました。この会には、八代目桂文楽、七代目三笑亭可楽、五代目蝶花楼馬楽といった当時を代表する噺家たちが参加していました。しかし、句の添削に対して参加者から異論が出やすく、運営は容易ではなかったと後に回想しており、この最初の「鹿連会」は約2年間で活動を終えました。

川柳の指導を行う傍らで、寿山は「連れ込み旅館」と称する宿を経営していました。この宿は、噺家たちが密会に利用することもあったと伝えられています。

戦後に入り、1953年には六代目三遊亭圓生を幹事役として、「第二次鹿連会」が発足しました。この新たな会合には、八代目桂文楽、五代目古今亭志ん生、六代目三遊亭圓生、五代目柳家小さんといった名人たちが再び集まり、川柳界の長老で僧侶でもあった西島〇丸も選者として加わりました。この「第二次鹿連会」は長期間にわたり活動を続け、寿山が噺家たちに絵の手ほどきをしたり、三越名人会などの舞台で即興の川柳を披露する企画を行ったりしました。しかし、会のメンバーの多くが寿山より先に世を去ったため、自然な形で消滅しました。

「鹿連会」以外にも、「子鹿会」「鹿柳会」「鹿苦会」など、若手噺家たちのための川柳指導も積極的に行いました。

「第二次鹿連会」には参加しませんでしたが、林家彦六（八代目林家正蔵）とも親密な関係を維持しました。彦六が「正蔵」の名跡を海老名家に返上する際には、寿山が同行したエピソードも残っています。また、彦六、宇野信夫、東京新聞の富田宏、TBSの出口一雄と共に「はしば会」という集まりを結成し、日本橋の洋食店「たいめいけん」で会食しながら交流を深めていました。

晩年の1984年、84歳で、長年にわたる噺家たちとの交流を振り返る著書『粗忽長屋 文楽、志ん生、円生の素顔』を刊行しました。この著作では、言及される名人の多くが既に故人であったこと、そして寿山が彼らにとって川柳の「師匠」であったという立場から、遠慮のない筆致で噺家たちの生々しい人間性、時には弱点や欠点をも含めた素顔を活写し、大きな反響を呼びました。

著書

『花柳吟壽山調』松花 1934年
『落語寄席風俗誌』林家正蔵（八代目）、坊野寿山 共著 展望社 1975年
『色元結 昭和の初めの花柳界、粋な遊び』創拓社 1984年11月
『粗忽長屋 文楽、志ん生、円生の素顔』創拓社 1984年11月

出演

* NHK特集「びんぼう一代 ～五代目古今亭志ん生～」（1981年3月27日、NHK総合）

坊野寿山は、川柳作家としての独自の道を歩みつつ、日本の伝統芸能である落語の世界とも深く関わり、多くの噺家たちに影響を与え、彼らの人間的な姿を後世に伝えた稀有な存在と言えるでしょう。

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