坪井与

坪井與：満映から東映へ、日本の映画史に名を刻んだプロデューサー

坪井與(つぼい あたえ)は、日本の映画界に多大な貢献を果たしたプロデューサーとして知られています。1909年、長崎県に生まれ、東京帝国大学文学部仏文学科を卒業。在学中は、のちに著名な作家となる檀一雄と親交を深め、生涯にわたる友情を育みました。

大学卒業後、満洲日日新聞を経て満洲映画協会（満映）に入社。満映設立初期からその発展に深く関わり、満映の第一回映画作品『壮志燭天』では原作と監督を務めるなど、初期の段階から重要な役割を担いました。その後、娯民映画所長に就任し、満映理事長であった甘粕正彦と共に、李香蘭ら著名なスターを起用した多くの映画製作を指揮しました。坪井自身、甘粕正彦の政治的信条に共感し、甘粕派を自認していたとされ、甘粕の葬儀では先頭に立って棺を引いたほどでした。

戦後、東横映画京都撮影所企画部長を経て、東映東京撮影所長に就任。東映では、企画製作本部長、取締役、常務取締役、そして専務取締役へと昇進し、企業の中枢を担いました。私生活では、親友である檀一雄の異父弟である高岩三兄弟を東映に招き入れ、そのうちの一人である高岩淡は後に東映社長・会長にまで上り詰めることになります。坪井の人脈と手腕が、東映の発展に貢献したことが伺えます。

経営者としての活動と並行して、坪井は1961年に東映化学工業の取締役となり、1974年には社長に就任しました。多岐にわたる事業において、その経営能力を発揮しました。

晩年、坪井は満映時代の経験を基に、『満洲映画協会の回想』を著しました。満映設立の経緯から組織の変遷、制作された映画のスタッフやあらすじまでを詳細に記した本書は、系統性のある満映史資料として高い評価を得ています。これは、満映という歴史的かつ複雑な組織の全貌を理解する上で貴重な資料であり、坪井の映画界への貢献は、製作や経営だけにとどまらず、歴史資料の編纂という面でも大きな意味を持っています。

坪井與は、満映、東映という日本の映画史における重要な組織で活躍し、多くの映画製作に携わっただけでなく、後進の育成にも貢献しました。その多様な才能と人脈、そして時代の変遷を生き抜いた経験は、現代の映画界にも多くの示唆を与え続けています。主な製作・企画作品には、『女だけの夜』『金色夜叉』『天皇の帽子』『大菩薩峠 甲源一刀流』『爆音と大地』『忠臣蔵 櫻花の巻・菊花の巻』『親鸞』『赤穂浪士』などがあります。これらの作品は、日本の映画史における重要な作品群であり、坪井與の名は、それらの作品と共に、日本の映画史に刻み込まれています。

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